「いらっしゃいませ」より「おかえりなさい」【寄稿日:令和3年1月29日】
土筆旅館 女将 加藤弥生 氏
当旅館は、古くから遠洋漁業の町として栄えてきた焼津で昭和30年より加藤下宿として始まりました。
加藤下宿では、全国から中学校を卒業し焼津へ来た青年たちを預かり、鮪船に紹介していました。青年たちは航海を終え、下船すると、実家のように下宿の居間の炬燵で皆くつろいでいたそうです。その後、サッポロビール静岡工場の立ち上げ頃より青年達だけではなく、大人も利用するようになり、加藤下宿から土筆旅館となりました。
義父は鮪船の機関長として航海に行き、義母である先代の女将は旅館を守っていました。下宿屋時代から義母はお客様の洗濯をし、怪我で入院すれば毎日見舞いに行っていました。両親はお客様から「父さん、母さん」と呼ばれ、主人はお客様の弟のように育ちました。そして、食べるものもお客様と同じで、まるで家族のようでした。私が当館に嫁いだころ仕入れの際に、家族分のデザートを買おうとすると主人から「何でそれだけ?お客様の分も買って、お客様と同じものを食べるのが当館だから」と言われました。
代替わりした今もお客様を家族のように大切にお迎えしたいという思いは変わらずにあります。実家に帰ってきたようにくつろいでいただきたい。そんな気持ちから「いらっしゃいませ」より「おかえりなさい」とお迎えしています。そしてお帰りになるときは「いってらっしゃい」と見送ります。コロナ禍で人と人の距離がある今こそ心のこもった「おかえりなさい」でお迎えし、相手を思いやる心のユニバーサルデザインに取組んでいきたいと思っています。
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