第26回古き良き東海道の名残を支える宇津ノ谷倶楽部
第26回宇津ノ谷倶楽部
こんにちは。静岡県中部地域局です。
地域活動に取り組む方々や、イノベーションを起こしている企業にスポットを当て、地域と関わるようになったきっかけや活動内容について、中部地域局の職員がインタビューし、みなさんが元気になる情報をお届けします。
第26回となる今回は、静岡市駿河区と藤枝市の境に残る、宇津ノ谷の集落と旧東海道の史跡と文化の保護に取り組む、宇津ノ谷倶楽部の近藤武(こんどうたけし)会長にインタビューしました。
江戸~明治時代の風情が残る宇津ノ谷の里
私が宇津ノ谷の里に出会ったのは、平成27年に静岡市の地域課題を解決する人材を育成する事業「地域デザインカレッジ」内の「地域リーダー人材養成塾」に参加したことがきっかけでした。国道1号バイパスから道を曲がってほんの数分の場所にある宇津ノ谷は、昔ながらの日本家屋が軒を連ね、江戸時代の雰囲気を残す東海道や、明治時代に作られたレンガ造りのトンネルなど、時が止まったような風情を醸し出しています。
しかし、その集落の高齢化率は約6割に達し、子どもの数も顕著に少ないことが分かりました。
危機感を抱いた私は、平成28年に4人で「宇津ノ谷倶楽部」を立ち上げ、集落の出身者ではない身ながら、宇津ノ谷を元気にする活動に関わり始めました。
地蔵盆と伝説の団子
宇津ノ谷には、幸いにして独自の伝統文化が残っています。
江戸時代から続く「厄除け十団子」と呼ばれる、10個の団子をひもでつなぎ、束ね合わせた独特の形をした縁起物が、毎年8月23、24日の慶龍寺の縁日「地蔵盆」にて販売されます。
この十団子には伝説があります。昔、寺の小僧が人を食べる鬼と化した際に、慶龍寺の弘法大師作と伝わる「延命地蔵尊」が旅の僧に化身して、鬼を10の玉にして退治したというお話です。
私たちは、活動1年目に地元の方と厄除け十団子を500個ほど作りました。この十団子は、現在80代の方が5人くらいで作っているのですが、その方たちの次の世代に引き継がれなければ、江戸時代からの伝統が途絶えてしまいます。私たちは、伝統の厄除け十団子とは別に、名物として日常的に販売できる、食べておいしい団子を天神屋さんとコラボして作ることができればと考えています。また、江戸時代の食べ方の再現もチャレンジしたいところですが、どのようにして食べていたかはまだ分かっていません。
地域資源を活かした催しを開催
私たちはその他にも、明治トンネルで雅楽の会を催しました。静岡の浅間神社にも声を掛けていただき、8人で雅楽の演奏を行ったところ、100人ほどの方が来てくれました。
また、この宇津ノ谷峠は、豊臣秀吉が率いる小田原北条氏征討の軍勢が通った記録があり、秀吉から羽織を賜った家もあります。そのことにちなんで、段ボールで甲冑を作って子どもたちが身につけ、甲冑行列を行いました。合わせて秀吉が羽織を下賜する寸劇も上演したところ、好評でした。
また、明治のトンネルは暗くて独特の雰囲気があるので、去年からそこで怪談の会を催しています。
他に、紙芝居も上演していますが、浪曲の経験者が演じてくれたところ、声がよく通って好評でした。
こうしたイベントの中心になっているのが、先ほど触れた8月の地蔵盆なのですが、コロナ禍で3年間中止となっていました。今年は開催しますので、できるだけ多くの子どもたちに来てほしいと願っていますが、夏休み明けの平日という日程なので、難しいかもしれません。
宇津ノ谷の若い方は、藤枝市、焼津市、静岡市などの市街地に出て行ってしまい、戻ってこない傾向があります。家の数は四十数軒ですが、お年寄りの一人暮らしが多くなっています。元々峠ということもあり、日の当たる時間が短くて寒く、ここで暮らすには我慢が必要かもしれません。
空き家が増えると町並みが荒廃してしまいますから、アレックス・カー氏という有名な古民家コンサルの方とともに、静岡市が宇津ノ谷の家屋2軒を民泊にする研究をしましたが、費用がかかりすぎるということから上手くいきませんでした。外国人観光客によるインバウンドが期待できると良いのですが、それに見合う受入れ体制が提供できる段階には達していないと思います。
宇津ノ谷の皆さんは、地域おこしを諦めてしまったようで、この地域の持つ潜在的な価値を当たり前だと感じていることから、その希少性に気づいていないと思います。知らない人が訪れてくることがストレスに感じている部分もあるようです。
かつてはこんにゃくやみかんも栽培していましたが、イノシシなどの獣害によって、現在は難しくなっています。
60代の方が、退職して自由な時間ができた状態で帰ってきてくれれば、もう少し集落が若返ると思うのですが。現実的には、帰ってきても生業となるものもなく、田舎に溶け込みにくいようです。
こうした宇津ノ谷の状況を打開するために、私は特に、女性の力が必要だと思っています。女性の方は、横のつながりを広げやすく、アクティブな方が多いからです。あと5年以内の内に、次代を担う世代の方に倶楽部に入ってもらい、地元にお金が落ちる仕組みをつくれたら良いなと考えています
宇津ノ谷のここが好き!
宇津ノ谷の集落の夜は真っ暗になり、昼よりも強く、昔ながらの東海道の雰囲気を感じることができます。静かで何の音もせず、「異空間」という印象です。
ここを流れる時間も、歩いて数分のバイパス道路とはまったく異なり、ゆったりとしています。
こうした集落を引き継げる、次の世代に期待をしています。
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