第22回地域の伝統食「朝比奈ちまき」の再生と啓発
藤枝市岡部町の伝統食を再現した「朝比奈ちまき保存会」
こんにちは。静岡県中部地域局です。
地域活動に取り組む方々や、イノベーションを起こしている企業にスポットを当て、地域と関わるようになったきっかけや活動内容について、中部地域局の職員がインタビューし、みなさんが元気になる情報をお届けします。
第22回となる今回は、藤枝市岡部町朝比奈地区で活動している地域団体「朝比奈ちまき保存会」の永井浩子さんと、萩原一郎さんにインタビューしました。
家康が愛でた朝比奈ちまき
朝比奈ちまきは、戦国時代、今川氏の重臣であった朝比奈氏が、陣中食として携えて戦に臨んだところ、連戦連勝した縁起物であったことや今川公、武田公、家康公にも献上したとの言い伝えが地域に残っているものの、実態を知る人はいませんでした。
そこに、平成5年(1993年)、今は亡き郷土史家の池谷圭次先生が、朝比奈家に伝わる古文書を解読され、その中に「朝比奈粽を持参せよ。上様(家康公)が召し上がるのできれいにしあげること」という家臣彦坂九兵衛の書状を見つけました。朝比奈家では、村をあげてちまきを作り献上しました。ちまきづくりには「ちまき井戸」の水を使ったと伝えられています。
その後も、朝比奈ちまきは徳川将軍家に献上されていたそうです。全国には様々な地方色を持つちまきが存在しますが、献上品となったのは、朝比奈ちまきと、京の朝廷に献上されていた「御所ちまき」の2つだけで、「諸国名物御前菓子秘伝鈔(享保3年:1718年)」という日本初のお菓子の文献にも紹介され、全国的に知られた名物だったようです。
しかし、時代は流れいつの日か献上も途絶え、朝比奈ちまきは作られなくなっていきました。
朝比奈ちまきの復元
池谷圭次先生が、解読された古文書の中に朝比奈ちまきの作り方を記した「御粽之書付」がありました。
平成19年(2007年)、池谷先生が講師で開講した、「一枚の古文書から読み解く歴史」講座で、私(永井)はその古文書「御粽之書付」に出会いました。そして、「作ることはできないものか。」、「みんなで味わってみたい。」という熱い思いが沸き上がり、復元にチャレンジすることを決めました。
チャレンジをすると決めたものの、実際に取り組み始めると、材料の一つである、「椿の灰」を作ることがとても難しいことがわかりました。
しかし、椿の灰(灰汁)は、ちまきづくりに欠かせないので、悪戦苦闘の末に灰ができました。
次に、その椿の灰(灰汁)を使い、「かしはる」(郷土菓子店)の、今は亡き法月吉郎会長が試行錯誤を重ね、ついに古文書に基づいた製法で、朝比奈ちまきの復元に成功しました。完成したちまきを、受講生で食べてみたところ、「やわらかいのに腰がある」など、感動するとともに、復元の成功を喜びあいました。
そして、私は、「復元したちまきを色々な人に知ってもらいたい!広げたい」という思いが宿り、平成23年(2011年)に有志で「朝比奈ちまき保存会」を発足しました。
朝比奈ちまきの伝承と普及
私たち「朝比奈ちまき保存会」は構成員20名ほどの任意団体です。会の主な活動は、朝比奈ちまきの「普及」と、「保存・伝承」で、朝比奈地域を拠点に、様々な活動をしています。例えば、朝比奈第一小学校3年生を対象に、「朝比奈ちまきづくり体験授業」を行うことや、岡部中学校の3年生には、「受験生応援プロジェクト」と題し、ちまきを食べて「連戦連勝(絶対合格)」というイベントを、各学校と連携して開催しています。
子どもたちには、紙芝居「あさひなちまきものがたり」を語り、朝比奈ちまきの歴史や特徴を伝えています。
また、朝比奈ちまきを通じ、「朝比奈の魅力」を多くの方に知ってもらい、ファンを増やしたい思いから、地域巡りの中にちまきの体験を織り交ぜた「里の宝発見ツアー」なども開催してきました。
「100年フード」として文化庁の認定を受ける
県志太榛原農林事務所から、「地域の食文化を情報発信していきたいので、文化庁『100年フード』に応募しないか」との話をいただき、「大井川農泊推進協議会」が進める「大井川のお茶請け食文化」の食の一つとして応募しました。その結果、令和4年3月(2022年)に藤枝の染飯等と一緒に認定を受けることができました。
朝比奈ちまきは、これまで地域のイベントの際に作っていただけで、常時販売している店舗がなかったのが懸案のひとつでしたが、この「100年フード」認定を機会に、岡部町新舟にある「縁カフェ 天神森」さんで販売してもらえることになりました。これまでの16年間の苦労が一段落したという思いがしたものです。
今後も続く挑戦
紆余曲折はありながらも、これまでコツコツと努力を続けてきた甲斐があり、保存会の活動にも明るい兆しが見えています。
ひとつには、NHK大河ドラマ「どうする家康」が放映になり、朝比奈ちまきが注目されるようになり、多くの方々に知っていただく機会が増えてきました。
保存会の活動では二つの課題の解決に繋がっています。一つは、地産地消を重きにおきながらも、ちまきを包む「笹の葉」は、市販品に頼っていましたが、今年に入り地元産の「笹の葉」を使うようになり、鮮度が格段にあがりました。
二つ目は、朝比奈ちまきはイベント等でなければ食べることが出来なかったのですが、1月中旬から、朝比奈地域にある飲食店の協力で、ちまきを販売していただけるようになり「気軽に手に入る」ようになったことです。
今後は、市内の複数の菓子店等で、ちまきを取り扱っていただけたら嬉しいなと思っています。
私たち保存会の活動は、今は亡き、池谷先生や法月会長の熱い思いを受け継ぎ、地域の皆様や、関わる皆様の協力でここまで継続できたと本当に感謝しています。
亡くなられたお二人や会員の思いを冊子にした「復元から未来へ」を手に、これからも、できることは着実に続け、チャレンジ精神は忘れずに、ゆっくりでも前に進んでいきたいですね。
また、保存会では、会員を募集しています。この記事をお読みになり、関心を持っていただけた方、ぜひ参加していただけたら嬉しいです。
藤枝市岡部町のここが好き!
岡部のことが好きで、様々な取組に関わろうとしてくれる人が多いと思います。朝比奈地区は、特にその傾向が強いと感じます。学校にも地域の方が多く集まり、地元の文化と歴史を引き継いでいこうとする人々が、活動しています。
朝比奈地区でのおすすめスポットは、なんといっても朝比奈城址です。山城なので、中腹まで登れば眺望が素晴らしく開けて、感動します。ここを戦国武将が歩いたというロマンを感じますね。
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