第25回創業120年のグローバルニッチトップ企業碌々(ろくろく)産業株式会社
こんにちは。静岡県中部地域局です。
地域活動に取り組む方々や、イノベーションを起こしている企業にスポットを当て、地域と関わるようになったきっかけや活動内容について、中部地域局の職員がインタビューし、みなさんが元気になる情報をお届けします。
第25回となる今回は、焼津市に高精度高速微細加工機の生産工場を持ち、創造性と仕事を楽しむことを大事に経営を続ける、碌々(ろくろく)産業株式会社の海藤満代表取締役社長(写真左)と、河村長治顧問(写真右)にインタビューしました。
創業当時から、世界を相手に切磋琢磨
碌々産業株式会社は、明治36年に東京の銀座で発祥の、創業120年になる老舗企業です。創業当時は、船舶のディーゼルエンジンのメンテナンスに必要な機械を輸入する商社でしたが、顧客のニーズに応えるため、自前で機械を製作するメーカーとなって、自社製品を輸出するようになりました。アメリカ、フランスの企業とも技術提携を結び、順調に成長を続けていましたが、第二次世界大戦が始まり、工場が空襲で狙われるようになったことから、焼津市に疎開しました。
現在では、微細加工のニッチ市場を突いていく、1ミクロン単位の精度による高品位加工を可能とする機械を生産しています。これらの加工機械は「VISAI」として商標登録もしています。この技術力を活かして、新500円玉や勲章の金型を製作し、造幣局へ納めています。また、東京2020オリンピック・パラリンピックのメダルの金型も製作しました。
こうした技術力を持ってしても、国内のみの市場はそれほど大きくありません、そこで、碌々産業株式会社ではグローバルニッチトップ戦略を掲げ、世界へ打って出ることで市場を広げることに挑戦しています。この戦略は、大規模ではなくても世界に確実に存在するニーズに応え、その市場の中でトップを獲っていくというものです。もちろんそのためには、常にユーザーのニーズを把握し、イノベーションを続けていく努力とともに、世界に名前を知ってもらうためのブランド化も必要です。
碌々産業株式会社は、ユーザーと共に課題解決に取り組んでいくスタイルと、難易度の高いプランにも挑戦していくチャレンジ精神を、創業以来の企業文化として引き継いできました。そうした姿勢と技術力が認められ、平成29年12月に経済産業省から「地域未来牽引企業」に、最初の企業として選定され、令和2年「グローバルニッチトップ企業100選」に認定されました。このことも、実績の証明とブランド力の向上につながっていくと思います。
日本の中小企業の現状と未来
大企業の海外への工場移転に伴い、日本の中小企業は営業やブランディングのノウハウがないまま取り残されてしまいました。以前は大企業の系列企業として、大企業へ自己の技術に基づいた提案を行い、それが製品に反映されて、優れた実績を残してきました。
しかし、系列企業として経営している限りは自前の営業力や海外展開力は育たないのです。そのため、現在中堅・中小企業が素晴らしい技術を持ちながら、それを活かす術を見いだせないままになっています。もし、自身でグローバル展開やブランディングができる経営者が揃ってくれば、日本は再び飛躍できるだけの力を持っています。
碌々産業株式会社では「碌々友の会」を立ち上げ、製造業の会社を中心に講演会や情報交換を行っています。
「つぶれない会社」で自由に仕事を楽しむ
日本では、賃上げが大きな話題になっていますが、賃金が非常に高いアメリカは、反面、社員の雇い止めが簡単に行われるという事情があります。
碌々産業株式会社は、成長よりも「つぶれない会社をつくる」ことを優先しています。具体的には、内部留保をしっかりと確保して、社員に給料を確実に払える安定した会社になることです。社員が幸せに暮らすためには、将来の生活設計を描けることが必要です。例えば、社員の子どもさんが一人前に成長するまで20年かかります。その間の安定した生活を提供するには、会社がつぶれるわけにはいかないのです。
また、論語に「知好楽」と呼ばれる言葉が出てきますが、この意味は「これを好む者は知る者に勝り、これを楽しむ者は好む者に勝る」、つまり楽しめている人が一番モチベーションが高いということです。碌々産業株式会社では、社員が楽しんで仕事に取り組めることを重視しています。もちろん、仕事には苦しいこともありますが、それを乗り越えて新しい物を作り出して、ユーザーに喜んでもらうことは大きな楽しみになります。
労働は賃金の対価というだけではなく、困っている人の問題を解決することが目的の大きなウェイトを占めます。それを徹底すれば、企業は世の中に必要とされ、つぶれることはありません。
碌々産業株式会社では、こうした理念を貫くため、あえて株式市場に上場していません。そのことで、社員のアイデアに自由に投資ができ、作りたい物が作れるのです。
技術者をリスペクトする取組
また、現在様々な業界で人手不足が問題になっていますが、社員を集めるにはブランディングが大切です。ブランド力が高ければ、人を呼び込むことができます。そのためには他社に真似できないような製品を作ることが必要ですが、クリエイティブなオペレーターがいてくれないと、いくらいい工作機械があっても使いこなせません。
そこで碌々産業株式会社では、優れたオペレーターやエンジニアを「マシニング・アーティスト」に認定し、称号だけでなくプレートやバッジも授与しています。リスペクトされる称号が、社員の実力とやる気を呼び起こすという効果が、本当にあるのです。
近年は、他社の技術者の方も対象に、エキスパート・マシニング・アーティスト認定を行うようになり、モチベーションの向上等で好評を得ています。内部からではなく、社外から認定されるからこそ人の喜びは大きくなるものです。実績として、3年間で100名を認定し、その中にはアメリカ人や韓国人の方もいるなど、国際色も出てきています。
焼津市のここが好き!
温かい気候と、はっきりした四季が、この地の人に豊かな感性と、じっくり物事に取り組める性質を育んでいると感じています。そのことが、微細加工やチームワークの形成に、プラスに働いていると思います。
四季は、人の感性を鋭くします。精密な機械時計などで有名なスイスやイタリアがそうです。焼津に限らず、日本の四季が日本人の感性を鋭くしていると考えています。
今はIT企業に人材が集まる傾向にありますが、日本は本来ものづくり立国だと思います。5歳から10歳くらいの子どもたちに、ものづくりを体験し、その楽しさに気がついてほしいと願っています。
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