推進員メッセージ7(田中たか子)
人と人の心を繋ぐもの【田中たか子推進員(富士市)】
40年間勤めた教職を退いてから、早いもので10年余りの年月が経ちました。今振り返り一番心に残っていることと言えば、Y中学校へ勤務したときのことです。
私は保健体育の教師でしたので、赴任早々体育館を見に行きましたが、そこで愕然としました。体育館の通気孔の金網は外され、床下には沢山の残飯や昼食の入っていたビニール袋が圧し込められ、散乱していました。校舎の窓ガラスは一晩で何十枚と割られ、教室のロッカーの羽目板は破損、暴力による破壊の痕跡が見られるなど、数え挙げれば枚挙に遑がありませんでした。
荒れに荒れた学校の再建に向け、教職員を始め保護者、地域の方々のご協力を得て、数々の試みが行われました。
まず、保護者や地域の方々の取り組みは、挨拶運動から始まりました。
朝、通学路の要所要所に立ち、「おはようございます」と声を掛けたり、ジャンケン遊びなどをしたりして、子ども一人ひとりに声掛けをしてくださいました。始めは含羞んでいた子どもたちも、顔見知りになると、にこにこして挨拶を交わすようになりました。このように、地域の方々に見守られ、子どもたちは情緒的にも安定し、平静さを取りもどしていきました。
校内では、教職員と子どもたちで、「楽しい授業の創造」を合言葉に、基礎学力の定着を図ることを目標に、助け合い学習が始められました。読み書き、計算力をつけようと、月初めに、百題の読み書きの漢字プリントと計算の例題が全校生徒に配られます。子どもたちは月末に行われるテストに向け、互いに教え合い、確かめ合って全員合格への取り組みが始まりました。この活動を通して、子どもたち相互の心の結び付きは、徐々に高められ、団結力も生まれ、授業放棄や妨害もなくなっていきました。
最後に、学校変革の起爆剤となったのは、他県農家で行う2年生の2泊3日の勤労体験です。見ず知らずのおじさん、おばさんに、手取り足取り細かいことまで農作業について教えていただくのです。
農家との初顔合わせでは、「こんにちは、○○です。よろしくお願いいたします」。朝起きたときには、にこやかに「おはようございます」。農作業を教えていただくときは「お願いいたします」。農作業が終了したときには「ありがとうございました。お疲れ様でした」。このような、日常生活の中に交わす短い挨拶の中に、感謝や労いの気持ちが凝縮していることに子どもたちは気付いていきました。食事の準備や後片付けにも「何かお手伝いすることはありませんか。」など自発的に取り組み、自分を生かしていくことの重要さも知っていきました。
真っ赤に日焼けした顔、指先が真っ黒に染まった手袋、汗に滲んだウエアー・・・。1日太陽の下で働き、身に着けていたものをはずすとき、労働の厳しさを知りました。
秋になり、農家から送られてきた真っ赤なリンゴを口にするとき、農家の人々のリンゴにかける汗と熱い思いが込められていることに改めて気付かされました。
1個のリンゴにも、命があり、その命を口にする。人間は、自分の命を繋ぐために、他の命を頂き、恩恵を受けて永らえていることにも改めて自覚させられました。
「いただきます。」「ご馳走さまでした。」の言葉の奥深さも、勤労体験を通して実感していきました。
子どもたちは、人と人との関わりの中で心を繋ぎ合い、大きく成長していきました。荒れた中学校を立て直す中核をなしたものは、心を結び合う言葉、心のありようを伝える言葉、挨拶、これに尽きると思っています。そして、人づくりを進める上でも中核になるものだと思っています。
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