推進員メッセージ6(山口康裕)
「人づくり」の根源とは【山口康裕推進員(伊東市)】
私は県の環境学習コーディネーター兼GT(ゲストティーチャー)として伊東市内の各小中学校を回っては、環境教育、体験学習等を行っています。
その中の一つ旭小学校には、旭山という豊かな学校林があります。この森にはかつてアスレチックが設置され、子ども達の歓声が響き渡っていましたが現在は朽ちて殆どが撤去されています。しかしこの森をよく見てみますと、潜在植生が戻りつつあり、非常に豊かな林層が生み出されています。中を歩いてみますと、潜在植生のタブノキ、ヒメユズリハ、ムベ、マメザクラ、オオシマザクラ、ヤブニッケイ等を始め、50種類にも及ぶ植物が繁茂し、特記すべきは隔離分布のニシキギ科モクレイシや湿った林床植物のイチヤクソウまでが存在しています。
この森は今でも昼休みになると子どもたちが走り回る冒険の山に変わりますが、この植生豊かな山を単なる遊び場としてだけでなく、学習の場、更には地域の散策を含めた自然観察の場であって欲しいと願い、子どもたちに問題形式にした樹木リストを作成し、看板制作の仕事をしているPTA会長さんに頼んで大きな写真入りの樹木リストが載った看板を作っていただきました。そして樹木には番号札を付け、クイズをしながら樹木を回り学習できるコースを友人のNPOに手伝ってもらい整備しました。
更にこのコースの途中には立派なユリノキの巨木があり、以前からこのユリノキを使いツリークライミングを子どもたちに行っている関係で、何とかツリークライミングの足場となるデッキを作れないものかと、保護者である父親達に働きかけてみました。すると鉄道会社に勤務する保護者が線路の枕木を用意できるということになり、早速皆で力を合わせてテラス作りに挑戦して強固なテラスを完成させることができました。
そこでこの山を核にして地域との結びつきを強める仕組み作りに取り掛かり、子ども達だけでなく、親や地域住民、地域の団体などが参加できるイベント案が出され、早速「旭山で遊ぼう」というイベントを開催することになり、「旭山で遊ぼう実行委員会」が結成されました。その結果、学校の先生方、地域団体、ボーイスカウトにも参加して頂き、にぎやかなイベントが学校の森で開かれました。ご婦人達は豚汁を用意し、各団体や先生もプログラムを展開し皆が楽しい一時を過ごすことができました。このイベントの中でボーイスカウトが子どもたちに遊びを伝授し、また保護者の面々には中学生スカウトが講師となりロープ講座を行いましたが、大人が子ども達から学ぶ姿は実に微笑ましい光景でした。
このイベントは今年で3年目を迎えますが、今年は地域の木工デザイナーから学校で伐採したイチョウを使った大きな木製フクロウがイベント会場の森に持ち込まれ、子ども達はあの切られたイチョウがそのフクロウに生まれ変わったことを知り、驚きながらも大喜びでフクロウを触っていました。そして今までは準備に徹していた父親たちが、今回は率先して弓矢作りのプログラムを担当運営するなどして、回を重ねるごとに学校や地域に対する考え方や、学校から地域へのアプローチの仕方などに変化が見られるようになってきています。さらに今年は保護者の意識の高まりの中、旭小学校は国のモデル学校林に指定を受けることになりました。そこで学校、旭山で遊ぼう実行委員会、PTA、NPO、学識経験者、地域住民が一丸となって、子どもにとっても地域にとっても、更に楽しく遊べて学べる学校林に発展させるべく推進会議が開始されました。
このようにして3年間という時間の中で学校林を核にして人々が集まり、関わり、結びつきが強まるにつれて、出来ることも徐々に拡大されてきました。一人の人間の力は高が知れていますが、個々、人が集まると如何に大きな力になることか、私は改めて実感しています。
私はこの一連の推移の中で人づくり推進員、環境学習コーディネーターというよりはむしろ、学校を支援する一地域住民として協働して参りましたが、支援者一人ひとりの汗と献身の姿を目にする度に、この姿が子ども達にとっても、私達大人にとっても、間違いなく「人づくり」の根源なのだと考えさせられます。私は行政サービスの縮小化の中で、協働こそが地域の活性化を生み出し「人づくり」へとつながる道だと信じ、これからも汗を流していきたいと思っています。
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