人づくりちょっといい話46
しっかり食べた体が「頭」もつくる
教育関係者の間で「七五三」という皮肉な言い回しがあります。先生の言っていることが分かる生徒が小学校で7割、中学校で5割、高校になると3割に減るというわけなんです。しかし、7割が分かるというのは大変な成果でして、朝ご飯と大いに関係があるんですよ。
最近の『文藝春秋』に、兵庫県の朝来郡の山口小学校の取り組みが紹介されていました。人口3,000人の町なので予備校や学習塾が1軒もない。1軒もない町の小学校の出身者が、国公立の医学部や理学部にスイスイ入るんです。「どうしてだろう?」という疑問に、その小学校の蔭山英雄先生が『文藝春秋』に答えていらっしゃるんですね。
先生ご自身が工夫を凝らした手作りの教材で教えるということもありますが、その前に子どもたち全員がお母さんの手作りの朝ご飯を食べて登校するという前提があるのだそうです。「朝ご飯を食べさせる運動の会」という全国組織のボランティアが山口小学校を訪ねて、「朝ご飯を食べた人は手を挙げて」と言ったら、生徒全員が手を挙げたそうです。次に「お母さんがどんなものを食べさせているのか知りたいから、朝ご飯のメニューを持って来て」と頼んで、そのメニューを栄養士さんを交えて検討したら完璧な朝ご飯だったというんです。もちろんご馳走ではなく、ご飯と味噌汁と魚の干物と焼き海苔とか大根おろしといった献立です。それを食べて、体が温まったところで授業を聞くんですね。
授業の工夫はといえば、「百升(ます)計算」という課題があります。縦軸と横軸を10本引くと100の升ができます。その升に、例えば縦軸は5、横軸は3といった任意の数字を入れて、競争で縦軸と横軸の升の数字を足し算させるんですね。最も時間のかかった子は、百升を埋めるのに9分11秒かかったんですって。「よくできたね。でも、惜しいね。もう1回やってみよう」と何回も何回もやらせて、3ヶ月後に3分18秒でできるようになったそうです。
ここから何がお分かりですか?基礎教育というのは「強制」と「反復」がなければ身に付かないんですね。そして「強制」と「反復」に耐えるためには、ご飯をしっかりと食べた健康な体と血流が充分に回っている頭脳が必要だということなんです。
なぜ教育に家庭が必要かというと、あいさつや躾(しつけ)も大事ですが、「子どもの体づくり」が同時に「子どもの頭づくり」であるからなんです。「人づくりで一番大切なことは何ですか?」と聞かれたら、これからは「お母さんの朝ご飯です」と答えようと思っています。ギリギリまで寝かせておいて、コーヒー一杯ですっ飛んで行って授業を聞いても、頭の方が受け止める状態になっていません。教育という言葉は、「教える」と「育てる」という字からできています。「教える」の方は、学校がそこそこにやっています。しかし「育てる」の方はいかがでしょうか。家庭で、その基本がないがしろにされてはいないかと、つくづく感じるんです。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(2001年発行)より
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