人づくりちょっといい話8

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ページID1018528  更新日 2023年1月11日

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子どもの心の栄養剤

優れた教育者、森信三先生が、「どうしようか……」と驚いたことがあります。それは尼崎の武庫川小学校で「『もう、死にたい』と思ってる子いる?手を挙げてごらん」と言ったら、教室の中の46%の子が手を挙げたというんです。青森県の黒石町でも40%近い子が手を挙げたといいます。

どうしてなのでしょう。子どもたちは「父親や母親を心配させまい」と小さな心にそれなりの配慮というものを持っていて、父親や母親がいろいろと言ってくれることを全部善意に解釈して、その善意を自分で内面化している。その内面化したものを「振り」に変えるんですね。いい子振る。勉強してみせる、親の言うことを聞いてみせる。「こんな勉強面白くない」「本当は分からない」ということを、「ねえ、だから教えてよ」と言いたいんだけれども、それを言うと親が心配するだろうから黙っている。子どものころから、父母の要求が高ければ高いほど、子どもの配慮が働いてしまうんですね。これをロールプレイというのですが、いい子振るのを続けているうちに嫌になってきて、キレるか自殺するかのどっちかになってしまうらしいんです。

こうした問題を、どうやって解決するかというので、千葉県のある町では、学校区を14に分け、その14の地域の中で和太鼓とか合唱クラブとかお祭りなど自分たちで始めることにしました。「クリーン作戦参加運動」というものもあります。「自分たちの地域の中には吸い殻一本落ちていないような町にしたい」と。それぞれ小さな地域になりますが、一つ一つ目標を持って、子どもを巻き込んで、子どもを中心に働いてもらって、子どもたちに本当の姿を見せる。親たちも本当の姿で接する。そういう活動を始めたんです。

このことから、30年ほど前に、香川県高松市の栗林公園に行ったときのことを思い出しました。私は朝6時にジョギングに行ったんですが、長い列ができているんです。前の日に観光客が落としていったごみを市長を先頭にして拾う運動だったんですね。何年も続いたそうです。もう市長は変わっていますから、実際に今もそれがあるかはわかりませんが。毎朝ごみ拾いに市長さんと行くことを、「俺は行ってるんだぜ」とだれも言わないんですね、つまり陰徳。善いことをしていても「私が、私が」と言わない。それで善いことを当たり前のことのレベルにまで引き上げる。そこで人格の完成が生まれるということなんですね。

この精神は、先程ご紹介した千葉県のある町で、14の地域がそれぞれにやることをやっても、人に見てもらうとか「こういうことをしている」といった自己主張をしないことと、通じると思います。こういうやり方も、子どもの心の成長に大きな栄養剤となるのではないかと思います。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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