第6次ふじのくにユニバーサルデザイン推進計画第2章(テキスト版)
第2章計画の評価・課題
1.ユニバーサルデザインを取り巻く環境
静岡県は、誰もが暮らしやすい社会づくりを進めるため、1999年度に全国で初めてユニバーサルデザインの理念を県政全般に導入し、すべての行政分野で取組を推進してきました。この計画を策定するに当たり、現状と課題を把握し、今後の施策の方向性を打ち出すため、その間のユニバーサルデザインを取り巻く環境を振り返りました。
(1)ユニバーサルデザインに関連する法制度の整備
この約20年の間に、次のようにユニバーサルデザインに関連する様々な法制度が整備されてきた結果、様々な分野でユニバーサルデザイン化が進みました。
ア.ユニバーサルデザインの総合的な推進に関するもの
ユニバーサルデザインに関する施策を総合的に推進するため、要綱や法律等によって、方針が示されてきました。
2004年に、関係閣僚会議において「バリアフリー化推進要綱」(2006年に「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進に関する要綱」に改正)が策定されました。
2017年には、東京2020オリンピック・パラリンピックを契機として、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が閣議決定されました。
さらに、2018年には、ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策を総合的かつ一体的に推進することを目的とした「ユニバーサル社会の実現に向けた諸政策の総合的かつ一体的な推進に関する法律(ユニバーサル社会実現推進法)」が施行されています。
イ.建築物や公共交通機関等のバリアフリーの推進に関するもの
あらゆる人が自由に移動、活動できるように、特に高齢者や障害のある人の不便を解消するために、不特定多数の人が利用する施設や公共交通機関等を整備する法律などが制定されてきました。
2005年に国土交通省が「ユニバーサルデザイン政策大綱」を策定し、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえ、生活環境や連続した移動環境をハード・ソフトの両面から継続して整備・改善していくという理念に基づき、政策を推進していくこととしました。
2006年には、いわゆるハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」が施行されました。高齢者、障害のある人、妊婦、けが人などの移動や施設利用の利便性、安全性の向上を促進するために、公共交通機関、建築物、公共施設のバリアフリー化を推進するとともに、駅を中心とした地区や、高齢者、障害のある人などが利用する施設が集まった地区において、重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進するものです。公共交通機関(駅・バスターミナルなどの旅客施設、鉄道車両・バスなどの車両)、特定の建築物、道路、路外駐車場、都市公園を新しく建設、導入する場合、それぞれの事業者・建築主などの施設設置管理者に対して、施設ごとに定めた「バリアフリー化基準(移動等円滑化基準)」への適合を義務づけています。既存のこれらの施設等については、基準適合するように努力義務が課されています。
なお、バリアフリー法については、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を契機とした共生社会実現の必要性を背景に、2018年及び2020年に一部改正が行われました。「共生社会の実現」及び「社会的障壁の除去」が明確化され、鉄道を利用する人などによる声かけ等、高齢者・障害者等への支援が明記されるとともに、公共交通安全事業者等による段差解消や障害者用トイレの設置等のハード面と旅客支援や情報提供等のソフト面の一体的な取組の推進等が盛り込まれました。
ウ.障害のある人に関するもの
障害のある人への差別をなくし、障害のある人の自立した生活の確保や社会参加の促進を図るために、次のような法律が制定されてきました。
2006年に「障害者自立支援法」(2013年に「障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)に名称変更)が施行されました。地域社会における共生の実現に向けて、障害福祉サービスの充実等、障害のある人の日常生活及び社会生活を総合的に支援するため、障害保健福祉施策を講ずることになっています。
また、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、2013年に「障害を理由とする差別の解消に関する法律(障害者差別解消法)」が制定され、2016年から施行されました。この法律は、国の行政機関や地方公共団体等及び事業者による「障害を理由とする差別」を禁止するものです。2021年の一部改正により、事業者による社会的障壁の除去の実施に係る必要かつ合理的な配慮の提供が努力義務であったところが義務化されました(施行は公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から)。
雇用の面では、身体障害者雇用促進法から改称された、障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、障害者の職業の安定を図ることを目的とする「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」があります。同法によって、国・地方公共団体や民間企業等において障害のある人の雇用を義務づけられています。障害者雇用率は段階的に引き上げられており、2021年3月以降、国・地方公共団体が2.6%、民間企業が2.3%となりました。対象となる障害は、当初は身体障害のみでしたが、1998年に知的障害、2018年にそううつ病や統合失調症などの精神障害が加わりました。2016年からは募集、配置、昇進、賃金等における障害者の差別が全面的に禁止されたほか、2020年からは国や地方自治体が率先して障害者を雇用する責務の明確化、短時間労働(週20時間未満)の障害者の雇用促進等が盛り込まれ、障害のある人の社会参加を確実に進めるものとなっています。
エ.高齢者に関するもの
高齢者に関する法制度については、福祉・医療・雇用・年金など、様々な法律があり、高齢者の生活を支えています。
特に福祉に着目すると、従来から、高齢者の心身の健康の保持や生活の安定を目的とした「老人福祉法」がありました。その後、急速に高齢化が進展するとともに、核家族化により家族の介護機能が低下し、高齢者の介護が社会的な問題となってきたことから、高齢者介護を社会全体で支える仕組みとして、2000年から「介護保険法」が施行されました。同法は2014年の一部改正により、高齢者が住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムを構築することとなりました。
また、雇用の面では、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」により、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備が図られてきました。2021年からは、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの定年引き上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入等が事業主の努力義務となり、エイジレスに働く環境整備が進んでいます。
そのほか、高齢者を取り巻く問題に対しては多方面から法制度が整備されており、2001年に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」や2006年に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」があります。
オ.女性に関するもの
女性の社会におけるあらゆる分野での平等や社会参加を図るため、次のような法律が制定されてきました。
1999年に、性別にかかわりなく、社会参画の機会の確保により、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受するとともに責任も担う社会を実現することを目的とする「男女共同参画社会基本法」が施行されました。基本理念に、男女の人権の尊重、社会における制度又は慣行についての配慮、政策等の立案及び決定への共同参画、家庭生活における活動と他の活動の両立、国際的協調を掲げ、国や地方公共団体、国民の責務を定めています。
また、雇用では、労働基準法により賃金の差別が禁止されていましたが、1999年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」が改正され、募集・配置・昇進などでの差別の禁止が、それまでの努力規定から禁止規定となりました。同法は、それ以降も改正され、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントの禁止や2020年の改正では、職場のパワーハラスメント防止が義務付けられています。
さらに、2015年には、自らの意思によって職業生活を営み、または営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されるよう、女性の積極的な採用、昇進や、職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境整備等を推進する「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行されています。
そのほかにも、女性の自由や安全を確保するため、2000年に「ストーカー行為等の規制等に関する法律」、2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が制定され、家庭内での暴力やつきまといなどのストーカー行為への対応が進められました。
カ.その他ユニバーサルデザインに関連する様々な法制度
これまで挙げたもの以外にも、2000年に施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(人権教育啓発推進法)」は、教育や啓発活動によって人権を尊重する社会の実現を目指しており、すべての人の立場を考えてデザインするユニバーサルデザインの理念に通じ、ユニバーサルデザインの推進に資するものだと考えられます。
また、「災害対策基本法」は1961年に制定され、国土や国民を災害から保護するために防災や災害対策の基本を定めています。2013年の改正では、被災者が一定期間生活するための学校等の避難所のほかに、災害発生時の一時的な緊急避難場所を指定しておくことや、避難の時に配慮が必要な高齢者や障害者の名簿を作成するために個人情報利用を許可し、非常時に消防団や民生委員などへ情報を提供することを可能にすることが盛り込まれました。より一層様々な人に配慮した対策が講じられることとなり、ユニバーサルデザインを実践するものと言えます。
そのほか、観光に関するものとして、2008年に施行された「エコツーリズム推進法」があります。法律の制定には、身近な環境についての保護意識の高まりや自然と直接ふれあう体験への欲求の高まりから、従来のパッケージ・通過型の観光とは異なり、時間をかけて自然とふれあう「エコツーリズム」が推進されるようになった背景がありました。この法律は、単に観光振興のみを目的としているのではなく、自然環境の保全に配慮しながら、地域振興や環境教育についても推進を図るものであり、様々な立場の人にとって有益な枠組みを作ろうとする点がユニバーサルデザインだと言えます。
以上のように、ユニバーサルデザインと関連する法制度は多岐にわたり、数多くあります。広い意味での行政の目的が住民の福祉の向上だとすれば、すべての人のためのデザイン(構想、計画、設計)であるユニバーサルデザインは、ほぼ全ての行政の分野に関わるものと言えるのではないかと思われます。
2.静岡県のこれまでの取組と第5次計画
(1)ユニバーサルデザインの導入からこれまでの20年のあゆみ
以前から、障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、「バリアフリー」という言葉が使用されていました。元々は建築用語として登場し、建物内の段差の解消等、物理的障壁の除去という意味合いが強いものでしたが、現在は、より広く障害のある人の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的な全ての障害の除去という意味でも用いられています。
バリアフリーが障害によりもたらされるバリアに対処するとの考え方であるのに対し、新たなバリアを作らないよう、あらかじめ多様な人々に配慮してデザインするのが「ユニバーサルデザイン」です。
静岡県では、ユニバーサルデザインの推進に当たっては、第1次(2000年度~2004年度)から第5次(2018年度~2021年度)までユニバーサルデザインに関する計画を策定し、それに沿って施策を進めてきました。第5次の計画では、ハード、ソフト、ハートの3つの分野で推進してきました。今回の第6次の計画を策定するに当たり、3つの分野ごとに、取組を始めてからの約20年のあゆみを振り返るとともに、第5次の計画を評価しました。
ア.ハード分野の取組
(ア)20年のあゆみ
様々な人の社会参加の機会が増加する中で、誰もが安全で安心して活動できる生活空間の形成がますます重要になることから、ユニバーサルデザインを導入した建物・公園・道路等の整備を積極的に進めてきました。県が本格的にユニバーサルデザインの推進に取り組み始めた1999年に「ユニバーサルデザインに基づく公共建築物の企画設計の考え方」(2001年に「ユニバーサルデザインを活かした建築設計」に名称変更)を策定し、県有施設への導入をはじめ、市町有施設や民間施設への普及を図るとともに、快適な歩行空間の整備や公共交通機関への導入を促進してきました。
その結果、県が設置した施設では、県立の高等学校や特別支援学校、小笠山総合運動公園(エコパ)、県立静岡がんセンター、富士山静岡空港、ふじのくに千本松フォーラム(プラサヴェルデ)、静岡県草薙総合運動場体育館(このはなアリーナ)、静岡県富士山世界遺産センター、日本平夢テラスなどにユニバーサルデザインを導入しました。また、歩道整備における段差の解消や十分なすれ違い幅の確保、分かりやすい道路標識等の整備、バリアフリー対応の信号機等の整備なども着実に進んでいます。県営住宅における段差の解消やエレベーターの設置等のユニバーサルデザインの導入率は、20.7%(2004年)から60.0%(2020年)に上昇しました。そのほか、鉄道駅へのエレベーター等の設置、バス路線の維持、超低床ノンステップバスの導入等について、事業者や市町に対する補助を行いました。主要駅のユニバーサルデザイン化の割合は、43.6%(2003年)から92.5%(2020年)に上昇しています。
(イ)前計画の評価と課題【ハード】誰もが快適で過ごしやすいまちづくり
- 評価
前計画では、「利用しやすく配慮された施設等の整備」及び「安全で利用しやすい歩行空間や交通機関の整備」の観点から、県有施設をはじめとする建物、公園、住宅、道路、鉄道駅等のユニバーサルデザイン化などに取り組みました。特に県内のオリンピック・パラリンピック開催地において、道路や公共施設等のユニバーサルデザイン化を進めました。
具体的には、県が設置した施設では、富士山静岡空港や日本平夢テラス、静岡社会健康医学大学院大学などで、多機能トイレや点字誘導ブロックの整備など、ユニバーサルデザインを積極的に導入しました。オリンピック・パラリンピック開催地については、沼津小山線(御殿場駅周辺地区)等の歩道の整備、歩道の段差、勾配の解消を行いました。そのほか、御殿場線岩波駅や東海道線御厨駅の障害者対応型エレベーター及び多機能トイレ等の整備への補助を行いました。
指標では、「誰もが暮らしやすいまちづくりが進んでいると感じる県民の割合」は、ほぼ横ばいとなっており、「通学路合同点検等に基づく対策実施率」については、目標に向けて順調に推移しています。- 成果指標誰もが暮らしやすいまちづくりが進んでいると感じる県民の割合
- 基準値2016年度49.5%目標2021年度75.0%現状値2020年度50.5%評価区分C
- 活動指標通学路合同点検等に基づく対策実施率
- 基準値2016年度56.3%目標2021年度100%現状値2020年度85.1%評価区分マル
- 課題
公共建築物や公園、住宅、公共交通機関、道路等の整備において、ユニバーサルデザインを着実に導入していくことで、誰もが快適に利用し暮らしやすいまちづくりを進めていくことが必要です。
また、「誰もが暮らしやすいまちづくりが進んでいると感じる県民の割合」が低い要因としては、高齢者や障害のある人の社会参加の機会が増える等により、よりユニバーサルデザインを取り入れたまちづくりへのニーズが高まったことなどが考えられます。そのため、ハードの分野の整備を進めるとともに、困っている人がいたら手助けするといった心のUDを促進していくことが必要です。
イ.ソフト分野の取組
(ア)20年のあゆみ
誰もが暮らしやすい社会を実現するためには、建物や道路等の整備といったハード分野だけでなく、製品やサービス、情報の提供といったソフト分野においてもユニバーサルデザインを取り入れることが必要です。
そのため、県は工業技術研究所にユニバーサルデザイン科を設置し、民間との共同研究による製品開発(高齢者や視覚障害者でも使いやすい浴室用リモコン等)や企業の研究開発支援に取り組んできました。そのほか、アイデア・ヒント集の制作、「グッドデザインしずおか」による優れた製品等の顕彰、ふじのくにUD特派員の取材による先進事例の紹介などにより、企業における製品開発や製品利用の促進を図ってきました。県内企業、団体等のユニバーサルデザインへの取組割合は、34.3%(2003年)から50.8%(2020年)に上昇しています。
また、分かりやすい印刷物作成のためのガイドラインを策定し、県で発行するパンフレット等の印刷物についてユニバーサルデザインの観点から見やすさに配慮しています。同時に、県のホームページについては、ウェブアクセシビリティ指針を策定し、音声読み上げや文字の大きさ・色合いの変更機能を追加しています。その他、分かりやすい案内標示・サインの整備、外国人のための「やさしい日本語」及び多言語表記、視覚障害や聴覚障害がある人のための多様な媒体の活用など、情報提供の面でもユニバーサルデザインに配慮してきました。
(イ)前計画の評価と課題
【ソフト】優しく魅力的なサービス・情報や製品の提供
- 評価
前計画では、「おもてなしの心あふれるサービス・情報の提供」、「利用しやすい行政サービスの提供」及び「使いやすく魅力あるものづくり」の観点から、観光・商業・情報分野におけるユニバーサルデザイン、行政サービスの利便性の向上、すべての人に配慮した災害時の対応、ユニバーサルデザインに配慮した製品の開発及び利用の促進に取り組みました。
具体的には、「ふじのくにユニバーサルデザイン特派員」による学生視点で、オリンピック・パラリンピックの開催地をはじめとする県内の企業・団体等の取組事例の取材を通じた情報発信などを行いました。2020年度は、新たにユニバーサルデザインの専門家等の投稿を発信しました。
指標では、「県内企業、団体等のユニバーサルデザインへの取組割合」は、2019年度の調査で約5割となっています。「工業技術研究所によるユニバーサルデザインに関する研究開発技術指導及び相談の件数」については、2020年度は、新型コロナウイルスの影響により技術指導・相談件数が減少し、目標を下回りましたが、他の年度はいずれも目標値に近い500件前後の実績で推移しています。- 成果指標県内企業、団体等のユニバーサルデザインへの取組割合
- 基準値2016年度45.9%目標値2021年度55.0%現状値2018年度50.8%評価区分B
- 活動指標工業技術研究所によるユニバーサルデザインに関する研究開発技術指導及び相談の件数
- 基準値2016年度年間496件目標2021年度年間500件現状値2020年度年間366件評価区分クロマル
- 維持目標
- 課題
県内企業・団体等に対する調査では、約7割の県内企業・団体等がユニバーサルデザインの取組の必要性は理解していると結果が出ていますが、実践につながらない主な理由として、ユニバーサルデザインの取り入れ方が分からないことが挙げられています。
今後は、企業・団体等に向けた情報発信に加え、企業・団体等のニーズに応じた講座の実施等により、ユニバーサルデザインへの理解と導入に向けた取組の促進を図る必要があります。ユニバーサルデザイン関連の研究開発を行う企業に対しては、コロナ禍においても製品・サービスの開発につながるよう、新しい生活様式に適した製品・サービスへの新規事業参入を促すとともに、オンラインによる技術相談等を強化するなどの支援が必要です。
ウ.ハート分野の取組
(ア)20年のあゆみ
県が本格的にユニバーサルデザインに取り組み始めた当初は、県民へユニバーサルデザインを普及するとともに、ハード・ソフト分野における取組を中心に推進してきました。しかし、それらの分野における取組を有効に活用するには人々の思いやりの心が必要であるという観点から、第3次計画(2010年度~2013年度)からはハート分野を加え、「心のUD(ユニバーサルデザイン)」にも取り組んでいくことにしました。「心のUD」とは、県民一人ひとりが、障害のある人や高齢者など多様な特性や考え方の違いを認め合い、相手の立場に立って思いやりのある行動ができることです。
ユニバーサルデザインによる社会づくりを進めていくには、県民一人ひとりにユニバーサルデザインという言葉やその意味を正しく知ってもらうことが重要です。1999年に県が実施した調査では、ユニバーサルデザインについて、言葉だけ知っている人は26%、意味まで知っている人は5%で、ユニバーサルデザインの認知度は約3割にとどまりました。
そこで、ユニバーサルデザインの考え方を普及するため、シンポジウムの開催やホームページ・メールマガジンでの情報発信、子どもから大人まで幅広い世代の人たちにユニバーサルデザインのアイデアを考えてもらうコンクールや特性に応じた対応方法などを学ぶための講座の開催、行政への導入のためのガイドライン策定、業種別講座開催やアドバイザー派遣等による事業者への導入支援をおこなってきました。
2000年度から開始した出前講座は小中学校を中心に実施しており、子どもの頃からユニバーサルデザインを身近に感じる機会となっています。2014年度からは、県内の大学生等の「ふじのくにユニバーサルデザイン特派員」が若者の視点からSNSを活用して情報発信を開始しています。
このようにユニバーサルデザインについて普及啓発に取り組んできた結果、2020年に県が実施した調査では、言葉だけ知っている人は25%、意味まで知っている人は34%で、ユニバーサルデザインの認知度は約6割まで上昇しました。
さらに2019年度からは、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を機に、困った人に声を掛けてサポートできる人を増やすため、「心のUDプラス実践講座」を開催しており、県民一人ひとりの実践促進に力を入れています。そのほか、外国語ボランティアバンクの登録者数が876人(2009年)から1,444人(2020年)に増加するなど、県民の間にユニバーサルデザインが浸透してきています。
(イ)前計画の評価と課題
【ハート】誰もがお互いに思いやり共生する社会づくり
- 評価
前計画では、県民一人ひとりがユニバーサルデザインへの理解を深め、思いやりのある行動を「一人ひとりが実践できる人づくり」及び誰もが活躍できる共生社会を実現するための「すべての人の社会参加の促進」の観点から進めました。そのため、ユニバーサルデザインの理念の普及・実践の促進、人権尊重の意識の高揚、学校・企業等におけるユニバーサルデザインを取り入れた教育、障害のある人や高齢者その他多様な特性や考え方をもつ人の社会参加などに取り組みました。
具体的には、小中学校を中心とした「ユニバーサルデザイン出前講座」の実施をはじめ、企業・団体等のユニバーサルデザイン取組事例に関する情報発信や、障害のある人への「声かけサポーター」の養成、援助が必要な人を見える化する「ヘルプマーク」の配布などを行いました。
また、東京2020オリンピック・パラリンピックの都市ボランティア等を対象とした「心のUDプラス実践講座」を実施したほか、新型コロナウイルスの感染者や医療従事者及びその家族等への誹謗中傷・差別に対し、被害防止に向けた啓発広報や相談体制の強化を行いました。
指標では、オリンピック・パラリンピックを契機とした共生社会実現に向けた機運の高まりのもと、「困っている人を見かけた際に声をかけたことがある県民の割合」は上昇しました。「ユニバーサルデザイン出前講座」については、毎年度30回以上実施し、目標を達成しています。- 成果指標困っている人を見かけた際に声をかけたことがある県民の割合
- 基準値2016年度25.5%目標2021年度33.3%現状値2020年度33.0%評価区分A
- 活動指標ユニバーサルデザイン出前講座実施回数
- 基準値2016年度30回目標2021年度毎年度30回現状値2020年度30回評価区分マル
- 維持目標
- 課題
高齢化の進行や障害のある人の社会参加、外国人県民の増加、性の多様性に対する人々の意識の変化といった様々な社会の変化に適応し、多様性を尊重した共生社会を実現するためには、ユニバーサルデザインを推進していくことが必要です。
そのため、広報や講座実施等を通じて、ユニバーサルデザインの理念の普及と、県民一人ひとりが相手の立場に立って思いやりのある行動ができる「心のUD(ユニバーサルデザイン)」の促進を図っていく必要があります。
エ.総括
2018年度にスタートした第5次行動計画では、ハート・ソフト・ハードの3つの分野において、数値目標達成に向けて様々な取組を進めてきた結果、2020年度にコロナかの影響を受けたものもありましたが、全体的にはある程度順調な進捗が図られました。
しかし、本県が実施した調査では、「誰もが暮らしやすいまちづくりが進んでいると感じる県民の割合」は伸び悩んでいます。その原因としては、高齢者や障害のある人の社会参加の機会が増える等により、よりユニバーサルデザインを取り入れたまちづくりへのニーズが高まったことなどが考えられます。
そのため、今後も着実にハード・ソフトの分野でユニバーサルデザインを推進していく必要があります。一方、社会全体でユニバーサルデザインを推進していくためには、誰もが社会の中で尊重され、自由に活動でき、快適に暮らせる社会が県民共通の認識となるよう、ハート分野の取組も重要となります。そこで、ハード・ソフトの分野を進める基礎となる思いやりの心と、ハード・ソフトの分野を補完する支え合いの行動を県民一人ひとりが実践できるよう、「心のUD」をより一層促進していく必要があります。
指標の評価区分の見方
用語解説
- 「成果指標」・・・施策・取組の成果を、客観的データにより定量的に示す指標
- 「活動指標」・・・施策の進捗状況を、客観的データにより定量的に示す指標
- 「基準値」・・・計画策定時(2016年度)の現状値
- 「目標値」・・・計画最終年度(2021年度)に達成すべき目標値
- 「現状値」・・・2020年度の実勢値
- 「期待値」・・・計画最終年度(2021年度)に目標を達成するものとして、基準値から目標値に向けて各年均等に推移した場合における各年の数値
区分 | 判断基準 |
---|---|
目標値以上 | 現状値が目標値以上のもの |
A | 現状値が期待値の推移のプラス30%を超え目標値未満のもの |
B | 現状値が期待値の推移のプラスマイナス30%の範囲内のもの |
C | 現状値が期待値の推移のマイナス30%未満から基準値超えのもの |
基準値以下 | 現状値が基準値以下のもの |
区分 | 判断基準 |
---|---|
目標値以上 | 現状値が目標値以上のもの |
B | 現状値が目標値の85%以上100%未満のもの |
C | 現状値が目標値の85%未満のもの |
基準値以下 | 現状値が基準値以下のもの |
区分 | 判断基準 |
---|---|
ニジュウマル | 現状値が期待値の推移のプラス30%を超えるもの |
マル | 現状値が期待値の推移のプラスマイナス30%の範囲内のもの |
クロマル | 現状値が期待値の推移のマイナス30%未満のもの |
区分 | 判断基準 |
---|---|
ニジュウマル | 現状値が目標値の115%以上のもの |
マル | 現状値が目標値の85%以上115%未満のもの |
クロマル | 現状値が目標値の85%未満のもの |
3.社会環境の変化
本県の総人口に占める65歳以上の高齢者は、2000年には17.7%で人口は約67万人でした。2019年10月1日現在では29.9%で人口は約108万人(そのうち75歳以上は15.4%で人口は約56万人)となっており、超高齢化が進んでいます。さらに、2025年には31.9%、2030年には33.3%と推移すると予測されています。
県内で障害のある人は、2020年度末で、身体障害のある人が約12万人で、近年は高い傾向にあります。知的障害のある人は約3万7,000人、精神障害で入院・通院した患者は6万人近くに上り、増加傾向にあります。
県内に暮らす外国人は、2020年度末には10万人近くおり、2008年をピークに一旦は減少しましたが、近年は再び増加傾向となっています。本県を来訪する外国人観光客についても、新型コロナウイルスの影響を受けた2020ねんより前までは増加しており、2019年の外国人宿泊者数は249万人で、5年前と比べて75万人増え、都道府県別では10番目の多さとなっています。
また、性的マイノリティの総称である「LGBT」という言葉が一般的に使われるようになり、性の多様性が社会の中で認知されるようになってきました。「男はこうあるべき、女はこうあるべき」、「異性を好きになるのが当たり前」といった意識や、そのような意識を前提とした制度の中で、学校や職場など様々な場面で生きづらさを感じ、偏見や差別を恐れて誰かに打ち明けたり相談することが難しい状況におかれている人もいます。2020年に株式会社電通が全国的に実施したインターネット調査では、自分がLGBTを含む性的マイノリティに該当すると回答した人は8.9%いました。
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大による社会への影響が挙げられます。常時のマスク着用、ソーシャルディスタンスの確保、外出の自粛など、私たちの生活は大きく変化しました。外出自粛や人との接触が制限される中で、感染者や外国人等への誹謗中傷などに見られるように、社会の不寛容さが顕在化しました。
そのほか、大きな変化としては、デジタル化の進展が挙げられます。「令和3年版情報通信白書」によれば、国は、2000年のIT基本法の制定以降、e-Japan戦略を始めとする様々な国家戦略を掲げてデジタル化に取り組み、光ファイバ等ブロードバンド環境の整備は大きく進展しました。その間、スマートフォンが急速に普及し、世帯保有率は10年前の1割から9割へと大幅に増加した一方で、デジタル技術の利活用は十分進んでいるとは言えない状況でした。しかしながら、コロナかはデジタル技術の活用を一気に加速させる要因となりました。同白書では、今後、民間企業及び公的分野における戦略的・一体的なデジタル化の推進と国民におけるデジタル化の促進が必要と結論づけた上で、デジタルデバイドの解消及びデジタルリテラシーの向上を課題の一つとして掲げています。
また、近年、2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsに社会的な関心が寄せられています。年金積立金管理運用独立行政法人が2020年に東証1部上場企業を対象に実施した調査では、SDGsの認知度はほぼ100%で、取組を始めている企業は6割超でした。SDGsの目標8は「すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する」であり、正に企業が目指す姿として、取り組みやすい面があると思われます。利益を上げることだけではなく、併せて社会課題を解決することで企業の価値が評価されるように変化してきたこと、特に企業本来の事業活動を通じて社会課題を解決するCSVという考え方が重視されるようになってきたことが背景にあると考えられます。
4.今後の課題
本県は、1999年度からユニバーサルデザインに取り組み、翌年度に最初の行動計画を策定して以降、切れ目なく取組を推進してきました。この20年余りの間に、県民の間のユニバーサルデザインの認知度は約6割まで上がったほか、法制度の整備によってユニバーサルデザインを推進する環境が整ってきており、特に、ハード・ソフトの分野においては社会全体でユニバーサルデザインの導入が進んでいます。
しかし、いまだに県民の約4割がユニバーサルデザインを知らないことに加え、高齢化の進行、障害のある人をはじめとする多様な特性をもつ人の社会参加の機会の増加、デジタル化の進展など、様々な社会環境の変化が生じています。県民一人ひとりの幸福度を高め、誰もが安心して暮らせる社会を実現するためには、それらの変化を踏まえた上で、誰もが物理的、社会的、心理的な障壁に阻まれることなく自由に活動できるよう、引き続きユニバーサルデザインを推進していく必要があります。
また、ユニバーサルデザインに関する施策を行うに当たって、社会は様々な人によって構成されており、ひとりとして同じ人間はいないことから、千差万別の多様なニーズがあることを認識しなければなりません。すべての人にとって満足度の高い社会を実現するためには、限られた施設やサービスなどの社会資源を適切に運用し、そこから得られる利益を誰もが享受できるようにしていくことが重要です。この課題を解決するためには、ハート分野での取組を重視し、社会全体で多様性を尊重する共生社会への意識の醸成を図るとともに、県民一人ひとりに思いやりの大切さを働きかけ、困っている人への声かけなど、日常生活における行動につながるよう、「心のUD」をより一層促進していく必要があります。ただし、人の心に働きかけて自発的な行動を促すことは容易なことではないため、継続的に取り組んでいくことが必要です。
そのほか、ユニバーサルデザインを効果的に進めるため、社会的にSDGsの必要性が認識され、企業において積極的に取り入れる動きがあることを踏まえ、ユニバーサルデザインとSDGsの関連性に着目して取り組むことが重要だと考えられます。
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