あなたの「富士山物語」(富士山 愛される山/渥美桂子)
富士山 愛される山/渥美桂子
「富士は日本一の山」と歌にもあるように、私達日本人にとって富士山は特別な山である。昔から、カレンダーや絵葉書で見る富士山は、冠雪まばゆく、まさに絵になる山だった。
私が富士山に登ったのは中学三年生の時。と言っても登山ではなく、修学旅行のルートに組み込まれていて、バスで一気に五合目まで上ったのだ。初夏の富士山はごつごつとした岩が転がる”無骨な山”だった。遠くから眺めるのとはまた違った趣きがあり、私の心に深く刻まれた。
やがて東京の大学に通うようになった私は、帰省や上京の折に新幹線を使うことになった。車窓から見る富士山もまた格別で、天気が悪く見えなかったりすると、がっかりしたものだ。
いつだったか一度だけ新幹線車掌のアナウンスが入ったことがある。「皆様、左手をご覧ください。美しい富士山を見ることができます。」青空と冠雪のコントラストがすばらしい、裾野がどこまでも広がる雄大な富士が、そこにはあった。乗客は皆、言葉もなく見入っていた。もちろん私も。
それから時は流れ、私は縁あって静岡の人と結婚し、市内に住むようになった。静岡に来たばかりの頃に住んだ三階のアパートの窓からは富士山のてっぺんだけが見えた。朝カーテンを開けて富士山がくっきり見えると、一日いい事があるような気がしたし、反対に曇っていて見えなかったりすると、ちょっぴり残念な気持ちになった。
静岡県の人は皆、富士山を「静岡県のもの」だと思っている。山梨から見える富士は裏富士であり、静岡から見える富士山こそが正式なのだと言う。もちろん山梨の人も黙ってはいない。こちらから見える富士山の方が美しいし、富士山は「山梨県のもの」に決まっていると反論する。どれだけ富士山が愛されている山か、よくわかるエピソードだ。
私のような他県民出身者は、笑って成りゆきを見守るしかないが、とにかく今は、毎日富士山が見えるこの地に住めて、本当に幸せだと思っている。やはり富士山は誰にとっても「特別な山」なのだろう。
今日もまた富士山が見える。一日頑張れそうな気がする。
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