第6回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ

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ページID1044431  更新日 2023年1月11日

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最優秀賞

『夏の終わり』(小説) 長田恵子

昭和初期、河津から富士講宿へ初めて働きに出た娘が様々な人々と出会い成長していく姿を描いた作品

ハツとイシの姉妹は、同郷のハナとミチと四人で駿東郡須走村の富士講宿で働くため、昭和初期の六月下旬、郷里の河津を後にし下田街道で修善寺へ出、駿豆線、東海道線(箱根山迂回ルート)、乗合自動車で須走へ着いた。秋に祝言を控えていた十九のハツは、足の不自由な十六のイシに今夏の須走行きでの自立と成長を願っていた。着いた翌朝、ハツの妊娠が発覚、イシの働き口が突然変わるなど思わぬ出来事が続出。イシは失敗を繰り返しながらも、鎌倉往還の富士講宿小平館で調法され、下駄屋の吉三にほのかな恋心を抱く。そして、吉三製作の紅い鼻緒の下駄を足に合わせて削ることで彼を怒らせてしまう。ミチは男と逃げたことで国へ帰される。富士山頂のホコラの祭り、閉山式を経て須走の夏は終わり、イシも帰りの日を迎える。富士に別れを告げ、そこに新たなる光を見つけ姉の元へ向かった。

優秀賞

『百音(もね)の序曲』(小説) 鈴木ゆき江

百音は、修善寺の温泉街で父と祖母との三人暮し。盲人である父は、ホテルや旅館へ出張するマッサージの仕事をし、祖母は旅館の下働きをしている。母もまた盲人で、百音が二歳のとき実家へ帰っていた。その母に百音がはじめて会ったのは小学校入学の時で、その喜びと哀しさが、百音の心に影を落とす。中学生になった百音は、祖母から両親の離婚の理由を聞き出し、自分の結婚は自分で選ぶことを心に決める。そして百音は、温泉場に仕事で来ていた青年と知り合い、修善寺を飛び出して結婚をする。が、百音もまた、父や母と同じようにつまずいていく。夫と別れ、娘を連れて戻って来た百音に、修善寺は変わらぬ親しみと居場所を用意してくれた。

『黒鼻ホテルの小さなロビー』(小説) 山本恵一郎

下田の六浦のある黒鼻ホテルは客室が七室の小ホテル。伊豆沖地震のあと客が減り、今では時間借りの客しか来ない。何か外に職を探して…と母ちゃは父ちゃに言う。父ちゃはそれが面白くない。黙って家を出て母ちゃの従姉妹のところへ行き、コンビニを手伝い始めた。ぼくは不安で何も手につかない。学校では居眠りばかりしている。そんなある日、留守番をしていると、父ちゃから電話がかかってきた。海へ人を突き落とし警察に追われているのだ。父ちゃが人殺しでは生きていられない。一緒に死のう、と母ちゃは言う。ぼくは逃げる。結局、父ちゃは自首し、突き落とした人も漁船に救助される。ぼくは母ちゃと自転車を走らせて父ちゃに会いに行く。

佳作

『蜆の唄』(小説) 中村 豊

四十八年連れ添った妻の葉(よう)が交通事故で死んだ。運転していた梢は生き残る。葉と梢は主婦業の傍らそれぞれ油絵と彫刻の制作に当たってきた。似通った生き方が二人の付き合いを色濃くした。私たち夫婦は葉の生れ故郷である伊豆の温泉町に晩年の居を定め、十年の歳月が過ぎていた。私の日常は葉が作り上げた生活の型に嵌め込まれ、死後もその形骸の中に心を沈める。梢は償いだと言って私の暮らしに役立とうと努め、二人の間に奇妙な感情の往来が生じる。葉を失った心の痛みは深く、死者への想いは募る。金婚旅行には津軽へ行く約束であった。老夫婦には十三湖の蜆汁の味が似合うと笑い合った。葉の死顔の写真を懐中に忍ばせ独り津軽へ旅立つ。

『伊豆の仁寛(にんかん)』(小説) 櫻井寛治

平安時代末期、帝位をめぐる確執に巻き込まれた阿闍梨仁寛は、冤罪を蒙って伊豆大仁に流された。傷つき泥にまみれ、希望を失っていた仁寛だったが、里長の娘摩耶の全身全霊的な献身を得て、弱った心身を回復することができた。求道者の心も取り戻し、民衆に密教を説いてゆくことに生きがいを見出した。一方で仁寛は、彼を伊豆に流したものがなお彼を憎み続け、いくさをおこす機会をうかがっていることも知っていた。「世の乱れを防ぐためには、わが命を差し出すほかに道はない」。新しい密教法流を編み出し、最後の弟子にその真髄を伝え終えたとき、仁寛は摩耶との暮らしを捨て、現世最後の菩薩行に赴くべく一千尺の丈山に登った。

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