学校事務再編のための研究指定校の取組
熱海市・牧之原市の実践
1 小中学校における働き方改革の推進
義務教育課においては、教育の質の向上や教員の子供と向き合う時間の確保に向けて、大きく3つの取組を柱として学校における働き方改革を推進しています。今回はその中から「専門職である事務職員の学校経営参画による働き方改革」について、学校事務再編のための研究指定校における実践例を紹介します。
2 研究の目的
この研究は、教員と事務職員関係なく、今一度、学校全体の業務を見直し、事務職員の業務移管・協働による教頭及び教務主任等の働き方改革の推進、事務職員の学校経営への参画意識の高揚・マネジメント能力の向上へつなげていきます。
このイラストの中で「職を越えた校務分掌の見直し」と「管理職の強いリーダーシップが必要」という点が今回の一番のポイントです。これによって、教育職員が担うことが適切な業務と事務職員が担うべきことが適切な業務を整理し、今よりも業務を効率的に進めることができるようになります。
3 研究指定校等
4 研究指定地区の取組について
研究指定校の取組事例、市教育委員会及び共同学校事務室での研究支援等について紹介します。
熱海市
【熱海市立第一小学校の取組】
学校評価の業務の再編事例を紹介します。
1 概要
教務主任が担当していた学校評価の業務を作業ごとに分け、その一部を事務職員に移管しました。分担後は、教務主任は企画提案と結果の分析を担当し、事務職員は回答フォームの準備と集計後のデータ加工による資料作成を担当することとしました。1つの業務の作業を分けるということは、必然的に担当する職員同士の連携が必要になりますが、人が変わっても連携する体制が維持できるように作業フローを作成しました。今後は、この作業フローを担当する職員で共有し、引継ぎに活用します。
また、組織としても持続的な運営ができるように校務分掌表に明記しました。
2 成果と課題
教務主任は移管した作業にかかっていた時間を有効に活用し、事務職員は移管された作業をする中で課題を見つけ、作成した資料をもとに管理職と教務主任に提案し、改善しました。
学校事務再編では、このような取組の積み重ねが必要です。とはいえ、業務の移管先は事務職員に限りませんし、また、業務を移管するだけでもありません。優先すべきは、学校にどのような業務や作業があるかを整理し、その中から廃止やスリム化できることを洗い出すことです。この整理から洗い出しを教職員一人一人が自校の未来のために取り組むことができる雰囲気をつくることが課題であると考えます。
【熱海市共同学校事務室の取組】
ほとんどの学校において1名配置である小中学校の学校事務職員が、働き方改革の推進にかかわる研究に取り組むにあたって、共同学校事務室のつながりを生かした支援を行っています。
1 研究の背景と目的、推進方法理解の共有
「学校事務再編」と一口に言っても、捉え方は人それぞれです。3年間の中で段階的に広めていくこの研究を円滑に進めていくために、取組1年目から研究の背景及び目的、推進方法について周知してきました。
2 研究推進支援と室業務
学校による取組の一助となるよう、共同学校事務室においても、研究指定校の実践に関する資料や情報を提供、解説しています。
学校事務再編の研究は、共同学校事務室における教員支援の取組と密接に関係しています。各学校の取組内容を検討するにあたって、教員支援チームの取組を生かしながら進められるよう、「室員」として取り組む研究内容も検討・実践しています。
3 情報の活用推進
事務職員が学校で扱う情報は、校内で再利用可能なものもあります。
例えば、教職員名簿作成業務については、事務職員が名簿データの追加・更新等を行う中で、学校運営に必要なデータのみを抽出し、エクセルデータとして管理職や教員に提供する、それを可能にできる名簿作成ファイルの改定作業を行っています。個人情報保護を厳重に行いながら活用し、教員の事務業務効率化を進めています。
4 共同学校事務室業務の定期的な見直し
取組の性質上、事務職員の業務量が増えてしまうことが多くなってきます。室員に過度な負担が生じないよう、「室で集中処理する業務」と「各校で処理し、室で確認する業務」のバランスを定期的に見直しています。
5 「チーム事務室」~共同学校事務室のバックアップ~
経験年数や年齢も異なる一人職の小中学校事務職員ですが、今後、求められることは多岐に広がっていくことが想定されます。「職」として担当する業務が増えることは、学校経営の一員としてのやりがいが増えることにもつながりますが、同時に業務量も増加します。また、勤務する学校に同じ職の人がいない中で学校事務再編のような重要な取組を進めることは、心理的な負担も大きくなることが予想されます。
学校事務再編の実践主体である市教育委員会と常に連携しながら、少しずつ着実に取組を積み重ねていき、共同学校事務室はその個々の取組を支えながら、可能な限り市内全校が同じように推進できるよう支援していきます。また、今までと同様に、「つながり」を大事にして進んでいきたいと考えています。
【熱海市教育委員会の取組】
学校事務再編が教職員の働き方改革推進の一助となることを目指し、本研究が円滑に行えるよう研究指定校の取組についての情報収集、情報発信をしています。各校の実情に合わせ、持続可能な取組となるよう内容を検討しています。業務のスリム化や改善につながるよう、取組に関する関係部署との連絡調整、規程等の見直しや改正等を進めています。
本研究の取組は、事務職員を含め全教職員が学校経営に主体的に参画する意識を高め、学校全体の事務についての再編であることを校長会、教頭会等にて周知してきました。今後も学校における働き方改革を推進し、引き続き校長会、教頭会、共同学校事務室等と連携して業務改善を図っていきたいと思います。
牧之原市
【牧之原市立相良中学校の取組】
校内の業務を「業務仕分表※」で細分化・見える化し、スリム化・スクラップ可能な業務、移管可能な業務等の分類をすることで、誰が担当するのが最適かを考えつつ、校務分掌の見直しを行いました。また、共同学校事務室への業務移管や集中処理によって、校内における事務業務が削減されました。こうして生み出された時間を、教頭・教務主任からの業務移管、校務全般への業務拡大、学校経営参画に繋げてきました。
業務移管する上では、「誰が行うと最も効果的・効率的であるか」、「教員でなくてもできる業務のうち、スクール・サポート・スタッフではできないもの」という判断基準で考え、取り組んでいきました。
※業務仕分表(熱海市立第一小学校でも同様に、業務仕分表を活用しています。)
取組の中から「保護者面談の日程調整に係る負担軽減」について紹介します。
これまで、保護者面談の日程調整は、次のように行ってきました。
(1)保護者へ通知を配布
(2)保護者は通知を切り取り線で切り、面談可能な日を担任に提出
(3)保護者から回収したものを担任が集計(集約方法は担任によって異なる)
(2)と(3)をオンライン化することで、保護者の回答内容を自動集計し、学級名簿を用いて提出状況・面談可能時間の見える化による希望調整補助が可能になると考えました。そのようにすることで保護者と担任の負担軽減や事務手続きの効率化が図れるのではないかと考え、教務主任に相談し、原案及びツールを提示し、企画委員会、職員会議で全体に提案し実施しました。
取組の詳細については、以下の資料を御覧ください。
<本研究指定を通じて>
この実践を共同学校事務室でも紹介しましたが、現時点で他校で実施するまでには至っていません。校内で従来の方法を変えることへの抵抗感や事務職員の意識も原因ではないかと考えます。事務職員が今まで関わってこなかった業務に対して、改善提案を行うことはハードルが高く、改善提案をしたらその業務は自分の担当でやらなければならないと思われていることもあると思いますが、必ずしも事務職員が担当する必要はありません。共同学校事務室で得た他校の事例の情報を、校内で共有し協議するだけでも学校経営参画の一つになると思います。
また、管理職が何かを決断するときに、事務職員の立場で進言したり、判断材料となるものを提供したりすることも「校長を補佐する」ことになると感じました。学校経営参画をあまり難しく考えず、挑戦してほしいと思います。
【牧之原市共同学校事務室の取組】
事務職員への業務移管や学校経営参画するための時間を確保するためには、学校における事務業務を減らす必要があります。学校から共同学校事務室(以下「室」という。)へ移管できる業務はないか検討した上で、次のとおり実践しました。
〇学校から室へ業務移管したもの
・扶養・住居・通勤手当認定簿及び児童手当台帳を室で集中管理
・会計年度任用職員報酬支払システムのデータを室で一括作成
・住居手当の契約期間や自家用車公務使用に関する免許・保険関係等更新時期を室管理
・旅費予算の執行管理や資金前渡口座通帳の集中管理 等
併せて、従来からある校内事務業務の効率化や簡略化により業務量を減らすことができないか検討し、次のものに取り組みました。
〇効率化・簡略化した事務業務等
・出勤簿の押印省略(出退勤システムへ統一)及び学校日誌の様式簡略化
・給与受領確認の電子化(押印省略) ・功績調書作成支援ソフトの作成
・教科書無償給与事務(システム)サポートブックを作成 等
また、事務職員の学校経営参画に繋がるように、校内における業務改善等の提案例を室で共有し、自校で実践してみるという取組もしています。若手事務職員でも進めやすいように教務会への提案の仕方等を先輩事務職員等から伝授しています。
研究最終年度の令和6年度は、市内全校が協力校となって研究実践しています。教員から事務職員へ移管する業務をいくつか統一して一斉に取り組んでいます。その中の一つ、教科書無償給与事務については、室(教員支援チーム)が児童生徒データを各校の教科書システムに入力することで、従来の業務量を減らしたうえで、教員から事務職員へ移管するということができました。
今後、これまでの取組を振り返り、持続可能な取組となるよう、室の業務フロー図の作成等をしていきます。
【牧之原市教育委員会の取組】
この研究を円滑に進めるために、研究指定校及び研究協力校(相良小・川崎小)の校長、事務職員と室長とで研究実践の成果や課題を共有し、課題解決等を図ってきました。
また、令和5年度に共同学校事務室が教員から集約したスクラップ・スリム化アイデアを基に、実現可能なもの、検討が必要なもの等整理をしています。就学援助費の手続きの簡略化について担当課へ調整を図ったり、学校へ配信するメールの精選や募集等配布物の精選等に取り組んだりしています。
なお、令和6年度から市内全校が研究協力校として一斉に研究実践するにあたり、業務仕分表の活用方法や統一して教員から事務職員へ移管する業務等を室長と協議し、校長会へ提案・説明し、各校で実践を進めてもらいました。学校事務再編の取組は、学校全体の取組であるので、市教育委員会のリーダーシップのもと校長・教頭の理解の上進めていかなければ効果も上がっていかないと感じています。
5 令和7年度全県実施に向けて
全県実施に向けてのポイントは
(1)市町教育委員会が校長会、教頭会及び共同学校事務室と主体的に関わり、連携していくこと
(2)学校事務再編は職を越えた校務分掌の見直しであり、管理職の強いリーダーシップのもとスリム化・スクラップを進めていく必要があること
(3)職を越えた校務分掌の見直しを行った上で、事務職員の校務全般への業務拡大等を進めていくことにより、学校経営参画意識を高め、マネジメント能力向上を目指すこと
です。
学校における働き方改革を進めていくには、専門職である学校事務職員がより専門性を発揮して、学校経営へ主体的に参画することが求められています。難しく考えず、できることから取り組んでみましょう。学校事務職員の更なる活躍が期待されています。
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