第3回伊豆文学賞 開催結果
静岡県伊豆地域は、多くの文人が訪ね、そこを舞台にして数多くの作品を生み出している文学のふるさとです。静岡県では、「伊豆の踊子」や「しろばんば」に続く、新たな伊豆文学や人材を見出し、支援するため、「伊豆文学賞」を創設しました。
2000年2月26日、静岡県三島市で伊豆文学賞の表彰式が行われました。
受賞者・受賞作品は、次のとおりです。
最優秀賞
作品名:軍曹とダイアナ 作者:会田 晃司
熱海に移り住んだ僕は、意味もなく街を歩いた。ある夜、祭の喧噪を避けつつ居酒屋に入った僕は、その店で、一人の老人と出会う。テレビドラマ『コンバット』のサンダース軍曹に似ていたことから、僕は心の中で彼のことを『軍曹』と呼ぶ。翌朝、アパートの中庭の物干しに、竿にかけられたダッチワイフを見る。持ち主は軍曹だった。彼も同じアパートの住人だったのだ。以来、僕と軍曹の奇妙な付き合いが始まる。ある晩、軍曹は僕をバイクに乗せ、深夜の美術館に忍び込んでの酒盛りに誘う。その軍曹が突然死んだ。葬儀の翌日、僕は軍曹の残したダッチワイフ『ダイアナ』を持って下田に行き、石廊崎から『彼女』を海に投げ込む。
優秀賞
作品名:豆州測量始末 作者:山上 藤悟
幕府が豆相総房四ヶ国の海辺巡視を目付鳥居耀蔵と韮山代官江川太郎左衛門(担庵)に命じたのは天保9年だった。が、二人の間には、巡視についての考えに大きな隔たりがあり、次第に確執が深くなっていった。巡視を終えたのは翌年3月4日、須崎村爪木崎の検分だった。巡視を終え宿所に戻った一行を待っていたのは、前夜、漁師の女房が殺され、下手人が耀蔵配下の朽木策之進であるという訴えだった。担庵は、耀蔵に捕縛の許可を求めるが、耀蔵は拒絶し、策之進を江戸に発たせてしまう。担庵は、直ぐ、書役の吉田源一郎を討手として送り出した。源一郎は二本杉峠で追いつくと、策之進を切り捨てる。しかし、これで二人の対立は決定的なものになった。
作品名:清流のほとり 作者:石川 たかし
緑豊かな天城の夏、息子の慎一郎が帰省する日の朝、周作と里江が息子を迎える準備をしようとしていると、近くに住む文造の母、カツヨが行方不明になったと文造が知らせてきた。カツヨには徘徊癖がある。人間嫌いの文造は多くの人手を頼むのを拒むので、周作と文造と、慎一郎の幼な友達の明の3人でカツヨをさがすことになる。明は若くして父をなくして以来、周作を実の父のように慕っている。やがて、山歩きをしていた若い娘の助けもあって、カツヨは無事発見され、自宅に連れもどされる。そうこうしているうちに、慎一郎が到着する時間がせまってくる。
佳作
作品名:海の祈り 作者:山下 悦夫
昭和31年、海上保安庁の船員だった私は、20年ぶりに伊豆の下田を訪れて、幼い日に姉弟のように暮した娘、千秋と再会した。戦時中に父母を亡くした彼女は、母の従姉妹が営む料理屋で働いており、私はその境遇変化に心を痛めたものの、昔の感情を引きずって姉として接することにこだわった。間もなく船は2月間の航海に出たが、途中で起きたトラブルに巻込まれた私は、母港に帰ると北海道へ転勤を命じられた。千秋を女として愛していたことを覚り、下田に赴いて彼女も私を愛していたことを知ったが、赴任先へ届いた手紙は彼女の結婚を告げるものだった。千秋が私の元に還る日が訪れることを、下田へ繋がる北の海に祈ってはいけないのだろうか。
作品名:裏見の滝 作者:柏木 節子
稲穂が黄金色に輝く9月の半ば、3歳のときに母と離婚していらい会ったことのない父を尋ねようと決心し、修善寺町日向地区の大きな農家を訪れた28歳の優香は、そこで父が一週間まえに亡くなったことを知る。女系家族の中で大事に育てられた優香が失意の底で求めたのは父親だった。幻の父捜しは、父の再婚相手やその息子(弟)との心の交流を通して始まる。父のノートから、父が狩野川台風で家族や家や田畑を全て失い一人生き残った様子を知る。またその苛酷な体験から立ち直り、父なりの生き方を見いだしていく過程を弟とともに確認する。昔父が幼い優香と弟を万城の滝に連れだしていたことも判明し、それは優香に生きる希望を与えた。
審査委員 特別推薦
作品名:水の鼓動を訪ねて 「伊豆の踊子」へのアプローチ 作者:高田英明
『伊豆の踊子』を執筆するまでの、若き日の川端康成にとって、天城湯ヶ島とはどのような存在であったのか?また湯ヶ島での彼の生活が作品の中にどのように反映されているのか?
それを、僕自身の湯ヶ島とのかかわり合いの体験をもとに、考えをまとめてみたのが、この作品である。
また同時に『伊豆の踊子』のキーワードである"水"という要素にも注目し、その視点からの考察をも重ねてみた。もしかすると、"随筆"というよりも"フィールドワーク的文学論"(?)とでも言った方が正解なのかもしれない。
拙稿を、天国在住の宇田博司さんと彼のイノシシたちに捧げる。
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