第9回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ

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ページID1044404  更新日 2023年1月11日

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最優秀賞

『奈緒』(小説)

雲見温泉の民宿「はまや」には、就職を目前に控えた一人娘の奈緒と、一歳年下の従兄弟の潤が暮らしている。幼い頃から漁師である父の栄治と一緒にダイビングに熱中し、何よりも海を愛していた奈緒だが、母の多絵を亡くしてからは海から遠ざかっていた。そして、家を出て東京に行くつもりであることを潤だけに打ち明ける。

離婚した母に連れられ8歳の時に雲見に来た潤。虚弱だった潤は奈緒から海の不思議な世界を教えられ、雲見の自然に心の傷を癒されて身体も健康になった。奈緒をずっと見つめてきた潤は、奈緒が故郷を捨てることが納得できない。

潤を誘って高通山に登り、愛する景色に別れを告げる奈緒。何とか止めようと説得する潤だが、奈緒の決心は固い。奈緒は実は多絵の連れ子で、母の死後、養父の栄治に対する恋を心に秘めていた。後を潤に託して、奈緒は東京へと旅立つのだった。

優秀賞

『風待ち』(小説)

主人公掛川藩士柿沼岸之助は、蛮社の獄に関連する事柄により、心ならずも藩の飛び地である伊豆松崎の江奈陣屋に左遷され、ふてくされながら赴任する。しかし伊豆の地は国元で考えているような辺境ではなく、むしろ国や世界の情勢を知る情報の集積地であった。ここで岸之助は恋人の志津、下僚の中根、友の嘉吉、師の三余に巡り会い、彼らによって目を開かれ、人の優しさに触れ、人間的に成長する機会を与えられる。また、弓道でも良き師、好敵手を得てその技を上達させる。

折から嵐の夜、藩の御用船が沖に流され難破寸前の危機に瀕する。岸之助は命がけの一本の弓矢でその艫綱を射切り、船を解き放つことに成功する。

こうした経験を経て岸之助はこの松崎湊が風待ちの港として栄えてきた意味を知り、自分も人生の本当の船出のため、この港町で師や友や下僚たちに学びながらもう少し風待ちをすることを決意する。

『初照(しょしょう)』(小説)

伊豆半島南部海域を、特殊な形状のヨット(トライマラン)で楽しむうちに、私はある入り江にひかれていた。そこは爪木崎の下の美しい入り江で、岩礁に阻まれ、接近が困難だった。しかし最奥部には浅い円形の砂地の小さな湾があった。いつかそこに到達するのが願いとなった私は折あるごとに爪木崎に陸路、出向き、丘のうえから侵入路を探った。

ある日、岬の近くで、英国人女性のヘレナに再会した。伊豆に住む世界的に著名な日本画家の妻で、ふたりともヨットのりだった。画家が死去したことを知らされ、彼の生前の希望でもあったその入り江へヘレナとともに決行する約束をした。その帰り道、爪木崎の白亜の灯台にふたりで立ち寄り、そこに掲げられていた記念碑から、灯台がはじめて燈火を夜の海に投げることを、「初照」ということを知った。

入り江への冒険は果たされた。しかしその航海で私は指を怪我した。その傷をみてヘレナは異常に動転した。怪訝に思った私は、画家もおなじ指の先をヨットで失っていたことを思い出した。ヘレナもまた心に深い傷をもっていたのだ。ヘレナは日本を去った。

その後私に届いたヘレナからの手紙で、彼女が英国の南西部の半島で医療活動に従事していること、それが、爪木崎灯台とかかわること、夫と私の偶然の一致の指の怪我にもかかわること、が書かれていた。そして、近隣の白亜の灯台をみるたびに、爪木崎の灯台を懐かしく思い出すことも、最後に記されていた。

佳作

『アイゴー・アミーゴ』(小説)

妻を亡くした72才の達二郎は、子もないため孤独な身の上になり、せめて魚のうまい伊豆で晩年を過ごそうと伊東に引っ越してきた。海辺近くの香房という喫茶店に通ううち、すず子という48才の女性と知り合う。

すず子はひとり暮らしでヘルパーとピアノの教師をしている。達二郎は戦時中見た捕虜の記憶をすず子に語るうち、すず子と親しくなって、ピアノを教えてもうらうことになった。すず子は不思議な女性で、外を歩いていると、鴉がすず子の前に食べものを落としてくれたりする。もともと食の細かったすず子は、だんだん食べることを拒否するようになって、ついに入院する。

達二郎は食べるようすず子を励ますが、ついにすず子は食べることを拒んだまま死んでしまった。すず子の遺体の引き取り手を捜すため、達二郎はすず子の部屋で手掛かりを探す。すず子の部屋の仏壇で、達二郎は思いがけないものを見る。

『中居の生活』(随筆)

北海道から伊東へ。駅からの道をひたすらまっすぐ、スーツケースをごろごろ引きずりながら歩いてたどり着いたその宿は、12階建ての大きなホテルだった。

唇をぷるぷるいわせて怒る裏女将、きびきび働くルーム長、ノーパンで帰社する下ネタ好きな副ルーム長、みそ汁を注がせたら右に出るものはいないカラオケルームのおじさん、元鳶職の高井さん、伝説の酒飲みの三井さん、客の尻をさわる梅村さん、出過ぎた真似をする大塚さん、初めてみたホテルの裏側は、面白人間の宝庫だった。

暴力団の宴会や健康食品愛好会の宴会で酒を持って走り回り、調理場からの苦情にあたふたして走り回り、迷子の親を探して走り回り、たまにしかない結婚式でもはりきって走り回る。面白人間に支えられて走り回った、中居初心者の奮闘記。

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