第22回伊豆文学賞 入賞作品あらすじ(作者自身による作品紹介)

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ページID1044358  更新日 2023年1月11日

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(1)小説・随筆・紀行文部門

最優秀賞 「石に火を灯す」

恩多里志は四十三歳。かつてはITベンチャーの寵児として騒がれたものの、事業も家族も失い、西伊豆の松崎町に帰ってきた。町の北部に在する、石部の集落が故郷である。

帰郷の理由は長く交流の絶えていた父、達雄からの手紙だった。そこには「託したいものがある」とあった。息子なりに思うところがあり、復活した棚田で米作りに携わる父と再会したものの、彼は何を託そうというのか語ろうとしない。

里志は事業復帰までの猶予の場として松崎に滞在することにしたが、役場の臨時職員で達雄の弟子を名乗る水崎菜子、こわもて老人の三上禄郎、幼なじみの海美とのふれあいのなかで、棚田と達雄の今を知る。母の淑子の死後、彼女が慈しんできた田を、父は長らく護ってきた。

里志は、息子の恭一も関わったという棚田のビオトープでの野良仕事に参加することに。過去の大雨で失った蛍を呼び戻すためのプロジェクトである。

台風が棚田を襲った夜、里志は達雄の捜索に向かう。そこで父から大切なものを「託された」彼の前に、生きる標を示すように、失われたはずの蛍が舞うのだった。

優秀賞 「天城へ」

自らの意志で動くことのできない、重度の障害を持つ太郎は、四十三歳になるまで、母と共に生きてきた。その母が亡くなった。父はすでにおらず、一人取り残され、職もなく、親しい人もいない太郎は、将来が見えない。

ただ、一人、太郎を気にかけてくれ続ける母方の叔母澄子が太郎を励ます。この叔母も途中失明という障害を持っていた。太郎は叔母とは幼いころから心の通うのを感じていた。澄子叔母は障害があっても心豊かに生きていける方法をユーモアを交え、次々聞かせてくれた。

叔母は今六十歳を過ぎ、伊豆湯ヶ島の生家でサポートを受けながら一人で暮らしている。太郎は、思い出深い浜松の家を離れ、叔母の元に行くことにする。

伊豆へ向かう車の中に、道連れがいた。浜松の家の庭から迷い込んできたトンボだ。太郎は湯ヶ島に着くと、窓を全開にして、トンボを救った。夢を託して。

佳作 「海と亀の星」

鈴木亀の祖父が運営する「うぇるかめ」は静岡県浜松市の遠州灘にやってくるアカウミガメの卵を保護し、海へ還すNPOだ。初孫の亀を祖父は溺愛し、活動にも携わらせようとしているが本人はあまり乗り気でない。しかし、ウミガメの産卵に立ち会うことができ、そのことがきっかけで気持ちが変わる。

ウミガメは産卵時に涙を流すのだが、その時星が流れたのだと学校で自慢気に話す。旧友からはそんなことはないと言われるが、秘かに想いを寄せている福村海だけは亀の味方だった。

海と一緒に立ち会った母カメの卵の子供たちを海に還すことを心待ちにしていたが、卵の盗掘に逢ってしまう。

しかし、四つだけ卵が無事に還り、海と一緒に波の中へ帰っていく子ガメを見守る。

その時、母カメが流した星(それは虹色に輝く巻貝であった)を亀は海にプレゼントする。

佳作 「シャレコウベ、ふたつ」

昭和47年の夏、父親の事業の失敗で母とともに父方の祖父が営む天城湯ヶ島の小さな旅館音羽屋へ身を寄せることとなった小学4年生の珠世。母親が宿の仲居として働くようになり、ひと夏を誰からも干渉されず安穏と暮らしはじめます。その宿で小松崎東吾という小説家が執筆のため長逗留していることを知り先生の部屋を訪ねます。世俗離れした、子供のような先生と珠世はすぐに仲良くなり、彼の想い人、杏子へ恋の橋渡しをしたり、弟子志願の中学生・バンチの非礼を咎めたりします。2つの髑髏と「どんなに好いていても結婚できなきゃ同じ墓には入れない」の言葉を描いた珍妙な恋文につられて、杏子が天城を訪れ、温泉郷の夏は過ぎ、先生と杏子は珠世に別れも告げず、帰京します。40年後、先生が初めて書いた回顧録に自分との思い出話を見つけ、珠世は葉書をしたためます。湯ヶ島へ骨休めに来ませんか?その末尾に珠世は「音羽屋女将」と記します。

(2)メッセージ部門

最優秀賞 「富士の白雪ゃ」

富士の白雪ゃノーエ と口ずさむ祖母に「まるで白拍子」と陰口を叩くくせに農協主催の伊豆旅行の宴会で 富士の高嶺に降る雪も を歌い、「一緒に踊らまいかと引く手数多で――」と自慢した母。嫁姑の修羅場を乗り越えて、祖母の最期に「お婆さんのノーエ節が聞こえてきてよオ」と大泣きした母。冠雪した富士を仰ぐたび、私はノーエ節とお座敷小唄をBGMに祖母と母を思い出すのだ。

優秀賞 「秋野不矩、インド絵画の祈り」

日本画家として出発した秋野氏が花鳥風月とはかけ離れたインドをなぜ描くようになったかを知りたいと思いました。一年間のインド生活の中で信仰深い人々との出会いや、大いなる自然をテーマにした作品に魅せられました。浜松市のはずれにある美術館は日本とは思えない作りで、何度も足を運び秋野氏の息吹を感じ文章にしました。

優秀賞 「新緑と水の街 三島よ」

苦悩を胸に訪れた三島の街は、新緑の中にあった。友と私は会員の高齢化で、詩の会の存続が難しくなって、三島在住の先生をお訪ねしたのだ。ところが街中の新緑のまぶしい程の美しさに心をうばわれ、何も言えない。源兵衛川の流れに、ミシマバイカモが青々と揺れている。先生は何も言わなくても、私達の気持ちをわかってくれていたのだ。

「心が落ち着き、また詩集が出したくなったら、その時に参加者を募ったら」と言われた。

優秀賞 「三島への旅」

四年前からがんを患い、現在も闘病中の父の、セカンドオピニオンをとるために、家族みんなで長泉の静岡がんセンターへ行った時のことを書きました。前日に三島駅の近くでおいしい鰻を食べたこと、診察時の先生の心に残る言葉など、一泊二日の短い旅でしたが、家族にとって大切な思い出に残る旅となりました。闘病中の父を励ましたいという思いや、父を介護し支え続けている母と妹への感謝の気持ちが、この「三島への旅」となりました。

優秀賞 「海の誘惑」

休日の朝、海と富士山を見たいと思い立ち、子供の頃に遊んだ沼津に出かける。普通切符の途中下車で熱海駅前の足湯に癒され、温泉饅頭を楽しむ。目的の沼津港では富士山、美味しい魚料理を味わい、深海水族館シーラカンス・ミュージアムの展示に夢心地。千本松原で歌人の若山牧水を思い出しながら、時間を忘れて波と戯れる。

優秀賞 「井伏鱒二とワサビ田と釣りと」

井伏鱒二という作家も、旅の中からふと絵のような場面をつくり上げている。生誕百二十年の記事を見たとき、私は自然に日頃の読書の中から、伊豆に親しんだ作家の姿が浮かんだ。ワサビ田と釣り、そして、亀井勝一郎や太宰治も一緒に登場させている伊豆という世界を、作家は楽しく語っている。過去の作家の残した文学的世界は、伊豆という風土の中に色あせることなく静かにもえている。

特別奨励賞 「変わらない夏」

大学生になり浜松の実家を離れた私は、夏に帰省した際、中学の同級生と久しぶりにある場所を訪れました。当時と変わらない夏風に揺れる木々の風景は、あの夏の日に亡くなった祖母との思い出を私に蘇らせます。新しいまちでの生活に慣れていく一方で、亡くなった祖母も含めた故郷浜松への親しみの思いを、改めて自分に根づかせたいと思い、この作品を執筆しました。

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