<鳥獣対策促進・産業振興>野性獣肉を利用した新たな産業へ 伊豆市食肉加工センター イズシカ問屋
- 所在地
- 〒410-3214 伊豆市下船原410-1
- 事務局
- 伊豆市農林水産課
- 電話
- 0558-72-9895
- ファクス
- 0558-72-9909
- 設立
- 平成23年4月
- 運営人数
- 常勤作業員2名、非常勤作業員3名、事務員1名
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事業内容
- 捕獲鳥獣(シカ・イノシシ)の買い取り、食肉加工、卸売
人とシカとの調和が崩れた
伊豆半島の中心部に広がる伊豆市は、市域の7割近くが山地という自然あふれるまちである。しかし、多くの中山間地と同様に増えすぎたシカによる農作物などへの被害に悩まされている。一般的な自然環境下では1平方kmあたり2~3頭の生息密度が適正であるといわれるシカが、伊豆市では10倍の25頭前後にまで達すると推定され、シカによる経済損失は年間1億円に及んでいる。防御ネットでの対策も行っているものの根本的な解決には捕獲しかなく、年間約2,000頭を捕獲しているが、猟を行う人の高齢化や負担増によって、捕獲量を維持・増加することが大きな課題となっていた。一方で、捕獲したシカはごく一部が捕獲者周辺で食肉として自家消費されるのみで、ほとんどが山地へそのまま埋設処分されており、環境衛生面からも問題があった。人間の暮らしを守るために捕獲されたシカの命を無駄にしないためにも食品として生かしたいと、伊豆市は行政が食肉化の道筋をつけることを決め、平成21年度から市営の食肉加工センター設置のために本格的に動き出した。
食肉加工センターイズシカ問屋
ところで、これまでシカ肉が商品としてあまり流通してこなかったことにはそれなりの理由があった。シカは牛などに比べて個体が小さく可食部が少ないため、廃棄部分が多い。いわゆる歩留まりが低い肉であり、解体後の処分費用などを考えると採算が合わず、民間の創業は難しい。また、野生動物を食品とする際の安全性確保のために、ガイドラインに沿った施設で処理する必要がある。責任体制も確立していなければならない。つまり、シカを食肉として商品化するための最初の行動として食肉加工センターの設置を考える時、どうしても行政の施策として行う必要があったということになる。民間でできないことに行政が先鞭をつけ、将来の可能性を探るというこの方針に、伊豆のシカ肉消費拡大を願う伊豆市商工会天城支部の青年部有志も協力し、イズシカ問屋という愛称やシカがモチーフのロゴマークも公募で決まり、平成23年4月、大きな期待を背負って開所式が行われたのである。
イズシカ問屋は建物面積200平方m、一連の加工を行う処理レーンを2路備えている。現在の処理量では1レーンの稼動で足りているが、捕獲が順調に増えた場合にも対応が可能である。また、将来的に他地域からの持ち込みを受け入れできるという可能性も持つ。品質の確保には細心の配慮がされており、まず外部と繋がった搬入室で持ち込まれたシカを検分し、搬入者とともに病気・外傷・銃弾などをチェックする。搬入者は伊豆市内の猟友会会員か市に登録された伊豆市有害鳥獣捕獲隊員かのいずれかで、市役所の主催する講習会を受講しシカの捕獲方法や搬送方法など、食品として流通することを前提とした取り扱いルールを守る人々である。処理を行う職員も猟師や屠畜の経験がありシカ肉を熟知しているので、買い取り価格の概算見積をここで行い、食肉に適さないものは受け入れない。誰がいつ搬入してどのように加工されたものかが明確で、トレーサビリティ(生産・流通履歴管理)が可能だ。こうして買い取られたシカは洗浄され、内臓処理や皮剥ぎが行われる。その後、殺菌力の強い電解水で洗浄し、冷蔵室で熟成した後、筋などは極力取り除き、ロース・モモなど部位ごとに分けて、解凍してもドリップ(肉汁)の出にくい液体急速冷凍を使い、真空包装された製品を金属探知機でチェックした後に出荷される。このように、これまでの自家解体肉よりも格段に安全で品質の良いイズシカ肉を生産することによって、シカ肉への信頼性が高まり、消費を底上げすることに繋がっていくのである。
人と自然のより良い関係を求めて
イズシカ問屋は開所して1年足らず、捕獲された鳥獣を特産商品へというビジネス展開への道のりはまだ始まったばかりである。シカ1頭当たりの買い取り上限額は10,000円と設定している。とにかくシカの捕獲意欲を高め、イズシカ問屋という買い取り機関があることで捕獲後の処理も心配せずに捕獲に取り組んでもらうためであり、食肉加工業としては赤字でも、食害の抑止策として操業を軌道に乗せたい、と伊豆市農林水産課でイズシカ問屋の構想から担当を務める三須智勝さんは言う。行政で行う事業だからこそ、食害削減の経済効果と操業経費をリンクさせることができるのだ。しかし、同時に三須さんは、将来的にシカの捕獲・処理件数が順調に伸び、冷凍ブロック肉以外のオリジナル加工品や肉以外の皮・角・骨などの商品化などが行われていけば、ある時点から一気に産業としての展開が望める、とも言う。シカ肉はもともと低カロリー・高たんぱくでミネラルに富んだ食材であるといわれ、安全性と信頼度を高めたイズシカ問屋が、フランス料理のジビエだけでなく、シカ肉自体の用途を広く開拓していく可能性がある。時が来れば、現在5店舗が行う流通経路の拡大や、イズシカ問屋の民営化など、地域経済の一つの核としての体制整備も行われていくに違いない。今は行政が将来のコミュニティビジネスの土壌づくりに励んでいる段階なのだ。
「いくらシカを捕っても山が荒れれば生態系は崩れ、災害も起きます。自然との関わり、命を食べるということの意味を考える教育なども必要になってくるのではないでしょうか」と三須さんは言う。イズシカ問屋の順調な稼動が、人と自然の関係をより良いかたちで再構築していくことを願いたい。
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