平成21年6月 県議会定例会 知事所信表明
知事就任に当たり、御挨拶と所信を申し上げます。
多くの県民の皆様の御支持をいただき、このたび静岡県知事に就任しましたことは、誠に光栄の極みであります。県民380万人の知事として、その職責の重さを全身で受け止めております。県民の皆様の負託に応え、物心ともに豊かな富国有徳の静岡県の発展のために全身全霊を捧げる覚悟であります。何とぞよろしくお願い申し上げます。
私は今回の選挙において、多くの県民の皆様から、県政に対する様々な御意見をいただきました。行く先々で、厳しい経済・雇用の状況、医療・介護・福祉、教育などについて、直にお話を承り、県政への大きな期待を知ることができました。また、現場に出て学ぶことの大切さを改めて痛感いたしました。この経験を生かし、常に地域に根ざした県政に努めてまいる決意であります。私は、静岡県の持つすばらしい潜在力を確信しており、静岡県各地の持つ「場の力」を引き出すために、現場に赴き、現場から学び、現場に即した政策を立てる「現場主義」を自らの基本姿勢にいたします。
そして、地域のことは地域で決める「地域自立」を目標に掲げます。地域自立の基礎は一身の自立であります。一人ひとりが思いやりとボランティア精神を涵養してくださるようにお願い申し上げます。私は自らに、
- 弱い者いじめをしない
- 助力を惜しまない
- 見返りを求めない
を常に言い聞かせております。そして、どこでも・いつでも・いつまでも学ぶ姿勢を失わない「常在道場」をモットーに、「住んでよし、働いてよし、訪れてよし」の「日本の理想郷」を静岡県の県民の皆様とともに創ってまいりたいと強く念願しております。
主役はオール県民であります。
県民の皆様、そして県議会議員の皆様におかれましても、格別の御理解と御協力を、まず冒頭でお願い申し上げる次第でございます。
さて、静岡県は日本の縮図であります。歴史を振り返れば、平城京建設に始まる東洋文明の受容を、日本は江戸時代の始まる頃には終えております。続いて、ペリー来航に始まる西洋文明の受容の時代も、今まさに幕を閉じようとしております。現在の日本は東洋文明と西洋文明の両方が息づく「世界文明」の性格を持ち、また、亜寒帯から亜熱帯に広がる豊かな環境資源を持つ生態系の宝庫でもあります。静岡県は日本の真ん中に位置しており、世界の中の日本の美しい顔でありすばらしい代表であります。私どもの課題は、東西の文明を調和させ、地球環境づくりのモデルになることです。静岡県の課題はまさに「日本の理想」の実現であります。
そのために、私は県政の先頭に立って、「教育改革」、「食と農の改革」、「行政改革」の3つの改革に取り組んでまいります。
第1の改革は、「教育改革」であります。
地域における最高の宝は人であります。心身の調和した「徳のある人」を育てるために、文武両道は言うに及ばず、文武芸三道の鼎立を目指します。即ち学問・スポーツ・芸術、いずれの分野においても、優れた人材を県内各地から輩出することが理想であります。
そのために、「一に勉強、二に勉強、三に勉強」の運動を静岡から起こしてまいります。一の勉強は「学校」における学びです。二の勉強は「現場」での学びです。三の勉強は魂をゆさぶる芸術に触れて、より良い「生き方」を学ぶことであります。この運動を通じて、静岡の宝である子どもたちが「徳のある人」として立派に育っていくように、退職した教員を広く活用することによる35人学級編制の拡大を図ります。また、スポーツ界や文化・芸術界で活躍された方々をも、クラブ活動などで活躍していただけるように、学校と連携した仕組みづくりを考えてまいります。
特に感性を豊かにする芸術を奨励するために、県立美術館においては、試行的にこの夏休み期間中、全ての学生の入館料を無料とするほか、低学年の小学生については、同伴する保護者も無料といたします。さらに、この秋の国民文化祭を契機に、浜松の音楽、静岡の舞台芸術、伊豆の文学のほか、個性豊かで多様な県内各地の文化の掘り起こしに努め、21世紀の東海道を魅力的な文化の花咲く「芸術街道」としての新しいアイデンティティを確立し、静岡県全体が内外から憧れられる地域になること、即ち静岡の文化力を高めるように努めてまいります。また、県民の皆様から広く文化・芸術に対する御志を募るために、その募金のキャッチフレーズの募集と、デザイン性のある寄附金箱の設置を考えております。
静岡県に対する内外の人々の憧れの最高の対象は、日本一の富士山であります。富士山の「世界文化遺産」への登録を推進するとともに、日本の自然観、即ち自然を信仰と芸術の対象としてきた伝統を重んじ、自然への畏敬の念を育む教育を進め、さらに、「災害は忘れたころにやってくる」という日本人の防災観を徹底し、防災教育にも努めてまいります。
また、教員の国際化を進めるために、青年海外協力隊への参加を奨励し、多文化共生のための研究・教育・実践に努めてまいります。それとともに、「(仮称)JICAグローバル大学院」の設立を目指し、世界初の「MEA(Master of Environment Administration)環境経営学修士号」を静岡から発信することも視野に入れ、文部科学省・外務省に働き掛けてまいります。
第2の改革は、「食と農の改革」であります。
静岡の美しい景観は先人の守り育ててきたものであり、自然の恵みを活用した農林水産業に裏打ちされたものであります。水・緑・大地を大事にしない文明は必ず滅びます。水・緑・大地に根ざした静岡県の第1次産業の製品の品質は極めて高いものがあります。第1次産品のそのような質の高さに照らすとき、本県の農林水産物は、いずれも芸術品のレベルにあるという意味で「農芸品」の名に値するものであり、ブランド化を積極的に押し進めて、第1次産業の立て直しとルネサンスを図ってまいります。担い手・後継者不足に苦しむ農林水産業を元気づけ、都市との交流を図るために、現在取り組んでいる「1社1村」運動に加えて、「1校1山」、「1社1山」運動を進めてまいります。
また、森の活用、遊休農地の活用などを図るため、職業訓練の機会を提供して、技術を身につけてもらい、雇用の創出を図り、第1次産業の担い手を増やしてまいります。さらに、カロリー・ベースの食料自給率に縛られるのではなく、穀物・畜産品、茶・野菜・果物、海産物などを含む、静岡県独自の総合的食料供給力という観点を打ち出すとともに、1次・2次・3次産業を組み合わせた6次産業を起こし、域外に開かれつつも、域内で自己完結しうる地産地消を軸とした経済文化圏の形成を目指します。農林水産業の活性化と高度化に努めることで、何よりも県民の皆様が食の安全について心配されることのないようにし、地元の食文化に絶大な自信を深めていただきます。
第3の改革は、「行政改革」であります。
県民の皆様に、県政については何事によらず関心を持っていただけるように、情報公開に努め、透明性の高い「見える県政」を目指してまいります。
そして、県民の皆様に納めていただいた税金を無駄遣いしないように、県の仕事については、従来の「業務棚卸」に加え、第三者による「事業仕分け」を実施いたします。費用と効果をチェックすることで、不必要なものを排除し、必要な施策に重点的に配分するように努めてまいります。
また、県と市町の行政の重複を避けるために、権限・財源・人材を「三位一体」として市町に移譲いたします。即ち仕事だけでなく、お金はもとより、ヒトも合わせて、市町に移譲することにより、二重行政の解消に努めてまいります。
さらに、外郭団体の見直しに着手するとともに、県職員の再就職の透明性を高めるため、県が出資する外郭団体に対して、公募制による役職員の採用を要請するとともに、県の退職者を採用する場合には退職金を支給しないように要請し、あっせんによる天下りの廃止に取り組みます。
これらの3つの改革とともに、思いやりと活力に満ちた地域社会を創造するため、「暮らしの向上」、「ものづくりの支援」、「インフラの整備」を県民の皆様と二人三脚で進めてまいりたいと考えております。
第1に、「暮らしの向上」についてであります。
物の豊かさとともに心の豊かさも同じように大切です。ブータンの国王の提唱したGNH(Gross National Happiness)「国民総幸福度」において、静岡県が日本一になることを目標にします。
まずは、若い世代の「2人から3人は子どもを産みたい」という希望がかなえられるように、子どもの保育の充実、中学生までの医療費の無料化に向けての市町との協議、母子家庭、父子家庭への支援に重点的に取り組み、誰もが安心して子育てができるように努めてまいります。
医療問題は深刻です。医師不足に対処するため、現行の奨学金制度の充実のほか、何よりも「静岡県はお医者様を最も大切にする地域だ」という気風づくりに努め、医療体制の整備と拡充を進めます。基幹病院では勤務医の減少が危機的状況になっており、過重な労働となっている勤務医の負担を軽減する方策を早急に検討いたします。産婦人科については、医師が支援しながら助産師が検診から正常分娩までを一貫して行う院内助産所の普及を図ります
健康増進のための「予防医学」にも取り組んでまいります。市町と協力して、質の高い福祉サービスを受けられるようにしてまいります。
男女がともに活躍する男女共同参画社会の実現は、時代の要請です。仕事と家庭との両立ができるように、特に女性が働きやすい環境づくりに努めます。
高齢者の知恵や力を重んじる社会の実現にも努めてまいります。
生活を脅かす土壌・水質汚染などのほか、クリーン・エネルギーと言われる風力発電についても景観などに配慮し、環境問題の解決にも取り組んでまいります。
第2に、「ものづくりの支援」についてであります。
静岡の育んできた「ものづくりの技術」を大切にし、感動を呼ぶものづくりを積極的に支援してまいります。
未来につながるものづくりは、これまでのように海外需要に頼るのではなく、内需を喚起し拡大するものでなければなりません。地域経済を活性化するために、生活環境を良くし自然環境を生かした技術革新が必要です。ロボット、光などは内需拡大経済に導く未来のものづくりの例です。
また、地球温暖化危機に対処するため、クリーン・エネルギーの開発に本県も貢献しなければなりません。例えば、電気自動車をはじめ環境にやさしい車など低炭素社会の実現に資する様々な技術を積極的に支援してまいります。
さらに、「住んでよし、働いてよし、訪れてよし」を実現するため、住宅、健康、観光などの関連産業を支援するとともに、労働環境の維持向上に努めてまいります。
第3に、「インフラの整備」についてであります。
地域の自立の基礎は道路・橋・港・空港のインフラの整備と、それらが互いに連携して域内の一体化を高めることであります。そのために、既存の交通インフラの充実に努め、ネットワークの高速化を図るとともに、生活道路については、域内で最も整備が遅れている地域から重点的に整備を図ります。
富士山静岡空港の開港に伴う国内外の旅客の増大に備えるため、道路整備により構築される広域インフラを最大限に活用し、それを静岡県の活性化につなげてまいります。
空港の利活用につきましては、去る7月10日に麻生福岡県知事の招きを受け、福岡路線の利用促進について相互協力を確認し、来る23日には石川、鹿児島をフジドリームエアラインズの初便で訪問する予定であります。また、私を本部長とする「富士山静岡空港利活用戦略本部」を庁内に立ち上げ、全庁を挙げて様々な利活用策を進めるとともに、「富士山静岡空港の魅力を高める有識者会議」を立ち上げ、県内外の有識者からの御支援をいただくことにしております。また、私自らがトップセールスを行い、日本の表玄関としての富士山静岡空港の利用促進を全力で図ってまいります。なお、福岡路線につきましては、搭乗率保証制度の見直しを検討しておりますが、それとともに、現在、私が先頭に立って全庁を挙げて搭乗率の確保に全力で取り組んでいるところであります。
さらに、道州制を視野に入れ、太平洋と日本海、本県と周辺県をつなぐ道路網とともに情報環境を整備して、静岡県の中心性を誰もが実感できるインフラ整備に努めてまいります。
なお、最後になりましたが、喫緊の経済不況への対応策として、早急に有効な経済対策を実施していく必要があります。
本県経済は、5月の有効求人倍率は0.40倍で、4ヶ月連続して統計開始以来の最低を更新しており、企業の景況感も低い水準が続くなど、大変厳しい状態にあります。このため、本日、私を本部長とする「静岡県緊急経済・雇用対策会議」を立ち上げ、県内の雇用や経済情勢への対応策を協議いたしますが、広く県内の経済界や有識者の方々からも御意見をお伺いします。それらの意見を踏まえ、スピード感を持って緊急経済・雇用対策を取りまとめ、9月議会で補正予算案を提出したいと考えております。
以上、知事就任の御挨拶と所信を申し上げました。
ドイツの学者マックス・ウェーバーに「職業としての政治」という講演記録があります。ウェーバーは、「この世が政治家の理想とするものにとって余りにも愚昧で卑俗であっても『それでもなお』と言い得る者のみが政治を職業とし得る」と結んでいます。今なしている業を「天職」と心得る姿勢が「それでもなお」であります。毀誉褒貶にさらされ、失敗をし、挫折感にうちひしがれても、それでもなお、屈せず、堂々と、誠実に、「日本の理想」を追求してまいります。
県民380万人の皆様、県議会議員の皆様の御理解と御支援をお願い申し上げます。
平成21年7月21日
静岡県知事 川勝 平太
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