FICTふじのくにICTがクラスター介入経験で得られた課題と対応策

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ページID1024350  更新日 2024年6月4日

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これまで、県内で新型コロナウイルス感染症によるクラスター(患者集団)が発生した医療機関や福祉施設に、災害派遣医療チーム(DMAT)とともにふじのくに感染症専門医協働チーム(FICT)が訪問し、感染拡大防止対策の助言等支援を実施しました。

これら複数の施設を支援した経験から、クラスター発生施設(病院及び介護施設)の感染対策上の課題とその対応策を取りまとめてくださいました。

今後の感染対策の一助として御参照ください。

(取りまとめ:静岡県立こども病院 荘司貴代 先生)

クラスターが発生した病院における感染対策上の課題とその対応策

1 医療者の休憩室が狭く、換気できない3密環境となっている。

職員休憩室の環境と昼食時の注意喚起の欠如が職員感染で最も大きな要因であった。特に看護師は病棟のそばに休憩室があることが多く、ロッカールームとしても使用されて非常に狭い。休憩時間に交代で密集して食事をとっている。使用していない会議室や病室などを利用し、距離確保と換気、孤食ができる環境整備を早急に行うべきである。

2 医療者にアルコール手指消毒の習慣化されていない。

アルコール手指消毒は標準予防策として最も重要で有効な感染対策であるが、多くの施設で直接観察法や使用量調査など職員へ手指消毒を教育するシステムやフィードバックが行われていなかった。アルコール手指消毒剤の配置、ポシェットによる携帯でアクセスを改善し、実施するタイミングの再教育が必要である。

3 患者のマスク着用率が低い。

安全管理上、ナースステーションやデイルームで観察されている患者にマスク装着がなく、拡大した事例があった。ユニバーサルマスクの協力を得る。

4 個人感染予防物品(PPE)の脱衣時に他者のチェックがなく汚染しやすい。

レッドゾーンで装着したPPEは汚染されており、脱ぐ作業中に汚染が起こる。正しく脱ぐことが感染防止に重要である。原則的に二人組で汚染がないか確認しながら脱ぐことが望ましい。二人組で確認できない場合は、手順はポスター掲示する、鏡で見ながら脱ぐ、定期的に教育を入れる等、質の維持をすることが重要である。

5 使用済みPPEがグリーンゾーンに持ち込まれている。

レッドゾーンで使用したN95やゴーグル等のPPEをグリーンゾーンでもつけっぱなしで業務を継続しているケースが散見された。交差感染の原因となるため、レッドゾーンで使用したPPEは全て外して破棄してからグリーンゾーンに入ることを徹底する。

6 ゾーンニングのレッドとグリーンの境にビニールカーテンや衝立があり、通る際に触って汚染しやすい。

レッドゾーンから出る際に手で触ることで環境への汚染を拡大させる。レッドとグリーンの境にカーテンや衝立を置いている施設が多かったが、撤去することを推奨する。PPE着脱場所は手で触らないようにスペースを広く取る。

7 レッドゾーンでの業務過多で看護師が疲弊する。

レッドゾーンでの業務過多は医療者の疲弊をうみ、質の高い感染対策の維持を困難にする。感染隔離中はシャワーや清拭、口腔ケア、日常清掃など通常のケアの頻度を減らしてでも、感染対策、患者の容態、処置に集中できるように業務整理が必要である。

退院後清掃も看護師がしていることが多く、清掃業者もしくは他のスタッフに任せるべきである。鋭利な医療ゴミ箱用の外周を消毒してグリーンゾーンに移動させることが過重労働となっていた。医療ゴミはゴミ箱ごとレッドゾーンの出口に集め、ゴミの入ったビニール袋のみをグリーンゾーンの段ボールに入れて梱包することで、外部を汚染させずに廃棄することができる。経管栄養チューブやシャワーボトルなど洗浄が必要なものはディスポ化する。薬等の確認作業などはグリーンゾーンで行い、薬剤師や助手に移行できるものは移行する。

8 間違った隔離解除基準が使用されている。

軽症、中等症では発症から10日経過したら感染性は消失し、再感染の可能性は低いため安全に転院、退院は可能である。また感染隔離期間を超えれば、リハビリ施設や入所施設に転院が可能である。受入施設での不安感や誤解のため、不要なPCR検査が繰り返され、退院ができなくなっている。

9 感染制御チームICTに問い合わせや業務が集中し、本来の感染対策介入ができずに、病院組織全体が機能停止となっている。

一度、患者が発生すると、感染制御チームICTは現場での動線や疫学調査、PCRスクリーニングなどの感染対策上の業務を行う。実際には感染対策以外の不安や病院運営方針、職員の体調不良など問い合わせが殺到してしまう。患者が発生したら病院幹部は速やかに本部を立ち上げ、業務の役割分担を明確化する。災害拠点病院ではDMATを活用するべきである。

クラスターが発生した介護施設における感染対策上の課題とその対応策

介護施設では病院と異なり、標準予防策や感染対策を学ぶ機会が不足しており、平常時からアルコール手指消毒製剤や一般的な感染予防具(PPE)使用がされていない。おむつ交換時の手袋のみのことが多く、ガウンの着用がなく汚染しやすい。

食事介助時に職員は飛沫予防の目の保護を日常的に行っていない。

患者発生時に急にPPEを使っていても、着用しただけで安全と誤解し、脱衣時の汚染が回避できない。平常時からアルコール手指消毒、食事介助や口腔ケア時の目の保護、おむつ交換時の手袋・ガウン装着を実施して、定期的な訓練により質を維持する必要がある。

1 職員の休憩室環境

病院と同様の課題があり、休憩室が狭く、換気できない3密環境となっている飲食をする休憩室はグリーンゾーンであり、PPEを着用したまま休憩室・宿直室を利用するべきではない。宿直室でも夜間の徘徊やトイレ介助など、急なレッドゾーンでの対応が必要になるとPPE装着が間に合わないことがある。可能な限りビデオモニター等を利用し、レッドゾーンでの変化を早期に発見しやすくする工夫が必要である。

2 介護者にアルコール手指消毒の習慣化されていない。

入所者・利用者による誤飲防止のため、施設内でのアルコール手指消毒剤の配置をしていない施設が多い。誤飲予防が必要であれば、職員がポシェットやウエストポーチで携帯することを推奨する。

3 入所者・利用者のマスク着用率が低い。

認知症や精神発達障害のため、マスク装着に理解が得られない施設が多い。理解を得るために施設側、家族側から繰り返し説明を行い、できる限り協力を得る。難しい場合でも、食事介助や歯磨き時の飛沫発生しやすい処置では、職員が目の保護を行い、飛沫暴露予防を追加する。

4 平常時から飛沫対策が不十分

歯磨き、食事の介助は唾液が飛散しやすく、職員が飛沫を浴びやすい処置である。

実施時はゴーグルやフェイスシールドで目の保護を行う。

5 複数人の歯ブラシや歯磨き粉がトレー上一つにまとめられ、水道周囲に保管されている。

唾液は感染源であり、歯ブラシのまとめた管理は交差感染しやすい。病室内に個別に保管をする。経口摂取ができる場合、口腔ケアに歯磨き粉は必ずしも必要なではない。個別化できない場合は使用をやめることを検討する。

6 感染個人予防具PPEの脱衣時に職員が汚染しやすい。

脱衣場所にアルコールの配置がなく、脱衣に伴う汚染が起きやすい状況であった。

また、使用したPPEが蓋のないゴミ箱に廃棄されるため、容易に溢れて汚染を広げていた。レッドゾーンで使用したフェイスシールドやマスクをグリーンゾーンでも継続して使用しており、汚染を広げていた。

7 嘱託医によるトリアージとAdvanced Care Planningの必要性

病床逼迫により施設内で症状観察を余儀なくされる場合が多い。特に体力が低下した高齢者では重症化した際の挿管/人工呼吸器管理など集中治療を希望するのか、できるだけ穏やかに日常生活から離れずに過ごすのかを本人と家族と話し合いを持つべきである。感染者発生時は、嘱託医は、現場で患者の容態を確認し、酸素化障害や脱水症など、重症化兆候を見逃さずに対応をしていただきたい。

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このページに関するお問い合わせ

健康福祉部医療局感染症対策課
〒411-0801 静岡県三島市谷田2276
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ファクス番号:055-928-7100
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