第13回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ(作者自身による作品紹介)

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ページID1044393  更新日 2023年1月11日

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最優秀賞

「海煙(かいえん)」(小説)

僕とブーヤンは熱狂的な釣りマニアであり、アオリイカのパラダイスと言われる伊豆半島に釣り遠征する。僕は、別れた女の思い出から逃れるために釣りにハマり、ブーヤンは精神病の奥さんを抱えつつも、釣りへの欲望を抑えきれない。

二人は海の美しさに感動しつつ、海岸線を車で飛ばし、方々の港で竿を出すが、なかなか釣れない。ストレスから二人はケンカをするが友情も深まる。

やがて僕の竿に巨大なアオリイカがかかる。しかし、もう少しの所で逃し、自分もテトラポッドの隙間に転落してしまう。ブーヤンは少し離れた所におり、気づかない。潮が満ちて溺れそうになり、僕はようやく女との思い出に向き合う。別れてしまったが、女は僕のことが好きな瞬間もあったのだと思い至る。あきらめかけた頃、ブーヤンが探しに来て、僕を助け上げる。死なずにすんだ僕は、ブーヤンという新しい友達もいるこの世界で、また新たに生きていこうと思う。

優秀賞

「タバコわらしべ」(小説)

失業中の男は、交通量調査の仕事で食いつないでいた。調査は、道端に椅子を置き、二十四時間眠らずに道行く車両や通行人の数をカウントする過酷な作業だが、日払いの賃金を求めて定職を持たない人々が集まってくるのだ。

伊豆での調査のため、作業のバスに乗り込んだ男は、途中の休憩所で一人の老人と知り合い、タバコを恵んでやる。

休憩時間を利用して男は、周辺の土地を観て歩く。早咲きで知られる河津川の桜を見ながら、いつしか彼は羽振りの良かった過去のことを思い出していた。

二月の寒波に凍えながら調査を続けるうち、体調を崩した老人が倒れた。

だが、調査会社の人間は身元の知れない老人に冷たかった。

男は救急車に同乗し、老人の親戚に連絡をとった。駆けつけた老人の親戚から、男は老人が伊豆の出身で、二十年以上も行方をくらませたままだったことを知る。老人は一命をとりとめ、家族から謝礼を渡された男は、ひとり桜の下を歩くのだった。

「守り氷」(小説)

大正十二年九月一日、大地震が発生する。天城屋の奉公人次郎は、峠の氷室と氷池に被害がなく安堵する。それなのに、若旦那の平太は、天然氷造りはやめると言う。なぜ?

平太の嫁が産気づく。難産で、氷が必要だが店には一つも無い。次郎は夢中で馬車を走らせ、氷室の守り氷を持ち出す。しかし、疲れた馬はびくとも動かない。そのとき、天城の峰から聞いたこともない遠吠えが……。

氷を届けた次郎は、全てを売れとの命に背いたと首を言い渡される。平太の妹が必死でとりなし、病の親方に代り氷を造ることに。氷室をいっぱいにするように言われる。

いい氷を造りたい。しかし、厳しい寒波はやってこない。やっと張った氷を汚す雪が降り続く。力尽き諦めかけたとき、木樵衆が雪かきを手伝いにきた。皆の力で、氷を造らせてもらっているのだと気付くが、氷の生長はピタリと止まる。これでは売り物にならない。

親方に教わった造り方しか知らない次郎だが、氷を合わせるという方法に挑戦する。天城山の秘めたる力を信じて……。

佳作

「駿府瞽女(ごぜ)、花」(小説)

十四歳の時、花は、麻疹を患い、両目の光りを失って、駿府城下町にある瞽女屋敷に預けられた。

十五歳になった花は瞽女になり、門付けの旅に出る。旅は何時も五人で、先頭に目明きの幸さんが手引きになって、そのあとを四人の瞽女が、相手の背に手を差し置き、数珠つなぎになって歩くのである。

由比の浜の荒れる磯を歩きながら、漁師小屋で瞽女唄を歌い、夜は漁師の家に泊り、集まってくる村人に祝い唄を歌った。

花は、旅から帰る時、城下町の水道方同心鹿山新之助屋敷前で、剣術の気合を聞く。若々しい気合は花の脳裏に刻み込まれ、辛い旅から帰ってくる時の慰めに、次第に強い思慕の気持ちになっていく。

やがて、思慕は悩みを生み、己の不運を嘆く、そうして息絶えるように旅から帰ってくるとき、同心屋敷からは気合は聞こえず、線香の香りが流れてくる。香りの中から母親が現れ、新之助が見回りの安倍川で溺れ死んだ事を告げた。

「三島宿」(小説)

万治二年の冬、江戸への毛利家供揃いが雨の中を三島宿本陣に着いた。

三島の宿で毛利家の中間が抜け登楼を行う。事件が発覚し、定め通り打ち首となる時、事情を知る者達はなんとか刑の軽減を願い、逐電させようとする。しかし、当の本人は、何もかもあきらめ首を刎ねてくれと言う。

その時、本陣の主人がこの人物の首を切るなら違う男の首を切って、中間を預かるという。違う男とは悪さをするイガミの藤太だ。

その後、蔵の中でイガミの藤太を切るのか刀を振り下ろす音がした。

それから二年後、毛利家の供揃いが今度は江戸から東海道を下ってきた。

三島宿で本陣主がイガミの藤太の働く姿を侍達に見せる。

「我らの見たいのはあれではない」と道中奉行が言うと「明日、ススキの穂の中に狸の親子が出てくるでしょう」と答える。

翌日、供揃いから離れ、あぜ道を行く夫婦者がいた。赤ん坊を抱いている。

「長門守様、道中お達者で」と声をかけて狸の親子はススキの中に消えていく。

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