第16回伊豆文学賞 入賞作品あらすじ(作者自身による作品紹介)

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ページID1044382  更新日 2023年1月11日

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(1)小説・随筆・紀行文部門

最優秀賞 「ばあば新茶マラソンをとぶ」(小説)

主人公の原崎郁代は、思いがけない出来事から75歳で新茶マラソンに挑戦しようと思い立つ。そのためにランニングクラブに入会し、栗田コーチから指導を受け、トレーニングを積み、ある程度の長い距離を走れるまでになる。

新茶マラソン当日。序盤、郁代はランニング仲間の中村のサポートや、沿道の声援を受け順調に走り、関門を通過する度に自分の人生と重ね合わせる。

中盤、3関門から体力の限界が迫ってくるが、郁代はここを自分の人生の関門と同じようにがむしゃらにそれをくぐり抜ける。

終盤、最終関門の前で力尽きタイムアウトとなる。しかし郁代は審判員の制止を聞かず、何者かの力に押されレースを続け、ついに7時間後、40キロ地点まで到達する。そこには自殺未遂という思いがけない出来事を引き起こした孫の里沙が、自分の人生を賭けて郁代の来るのを待っていた。

優秀賞 「十一月の夏みかん」(小説)

舞台は、伊豆の熱海。街の中心近く、糸川町界隈はかつて色町だった。これは、その町に住む少年達のある一日を描いた物語である。

仲間達と約束があったのに、母親に頼まれて鍼灸治療院に出かけていった和之は、熱海で一、二の旅館・龍雲閣の庭に、赤ん坊の頭より大きなみかんの実っているのを見つける。

母親に薬を渡し、海岸に行くと、岩場で五人の仲間が蟹突きの真っ最中。この日は大漁であった。糸川町に戻った少年達は、通りに七輪を持ち出し、蟹をゆで祝宴を始める。それを見て、格子戸の間から「一匹、おくれよ」と、女が声をかけてきた。

「龍雲閣の庭に大きな夏みかんを見つけた」と和之が話し出すと、女はまた「知ってるよ、それ。以前、客が話してた。文旦だよ。大人の味がするっていってたけど、わたしゃ食べたことがない」その言葉で少年達の次の行動は決まった。文旦って奴を盗みにいこうぜ!

その夜、少年達はもう一度集まり……。

佳作1 「うみしみ」(小説)

松崎町の石部で生まれた曾我桐生。幼い頃に母は家を出、父の為助と祖母のえい、それに牛の花子と暮らす。為助は農業を営んでいるが、仕事一辺倒の人間であり、えいは祖父が亡くなってから呆けてしまった。必然的に桐生が一人で家事を行う。石部には自然以外のものは何もなく、夏休みは苦痛でしかなかった。しかし数年前からセイラという横浜の医学生が手伝いに来るようになった。桐生は彼を本当の兄のように慕っていた。

花子の出産のため、早めに駆けつけたセイラの献身的な対応により無事子牛を出産。桐生は命の誕生の瞬間を目の当たりにする。それから二週間ほど、充実した生活を送るが別れの間際、桐生は一人になるのが怖くて悪態をついてしまう。桐生の心を察したセイラは桐生を横浜へ連れていき、都会の生活を紹介する。しかし、セイラの本当の目的は桐生の母諒子について真実を語ることだった。全てを知った桐生は一回り成長して家族の待つ石部へ帰る。

佳作2 「『与平の日記』を歩く」(紀行文)

西伊豆の雲見温泉を訪れた時、ある小さなドライブインに立ち寄った。その店内の壁に貼られていた一枚の紙。その紙には、地元村民が書いた「与平の日記」という本の抜粋が書かれていた。

「与平の日記」は、炭焼き農民肥田与平さんが、波勝崎周辺の山中に生息している荒々しい野猿を、炭焼きをしながら餌付けをし、ついには観光客に見せることに成功した貴重な記録である。

五十年近く前の本だが、インターネットで古本を購入することができた。そこには与平さんと猿たちとの数々のエピソードが、ユーモアを交えて生き生きと描かれていた。

死んだ子猿をいつまでも離さない母猿の話。ボスの座を争うオス猿同士の壮絶な浜辺の決闘。名文・名調子で書かれた「与平の日記」を片手に、梅雨の中休みのよく晴れた一日、波勝崎周辺を訪ねて、与平さんの足跡をたどった。

(2)メッセージ部門

最優秀賞 「浜名湖一周の旅」

私が生まれ育ったのは、静岡県西部の、うなぎの養殖が盛んな浜名湖のほとりにある小さな町です。子どもの頃、町の行事の一つに、「徒歩浜名湖一周」がありました。当時は参加できなかったので、今回は夢の実現です。又、浜名湖は、亡き父が愛してやまなかった場所です。何故あれほどまでに通い続けたのか、その魅力を知りたいと思いました。車ではなく、自転車で旅をしたことで、わかることがありました。

優秀賞1 「藤枝大祭」

私が幼い頃から参加してきた藤枝大祭。大変歴史深く、伝統のあるこの祭りは三年に一度行われます。長唄、三味線、囃子方というフルメンバーによる生演奏で地踊りを披露する藤枝大祭は、「長唄における地踊り」の調査でその規模と質において日本一です。このように立派な祭りにとても誇りを持っているので、ぜひ紹介したくて作品にしました。

優秀賞2 「天城峠」

旧天城街道は古道愛好家の亡妻が「どの古道よりも楽しかった」と言った思い出の地である。たしかに伊豆半島を縦断する一本の道には、歩くしか手段のなかった時代の人々のさまざまな思いがこもっている。失われたように見える古い時代の道は、ずっと遠くから現代につながっているのだ。とくに旧天城トンネルは、喜々として通り抜けていった妻の後ろ姿が甦ってくるようで、私には限りなく郷愁をそそられる風景である。

優秀賞3 「伊豆は巨樹王国」

大昔南海にあった火山島が移動してきて日本列島にぶつかった。生まれたのが真鶴から今の御殿場線沿いに沼津あたりまでを含む伊豆半島だ。その伊豆一番の自慢は全国巨木ランキング二位の来宮神社の大クスだ。頼朝をはじめ鎌倉将軍はこれを見ている。熊野神社のホルトノキ、三島大社のキンモクセイはその樹種で日本一だ。他にスギやクス、ビャクシンに見るべき巨木がある。神奈川の巨木ヤマモモの源である伊豆の情報が望まれる。

優秀賞4 「湖西焼き物考」

静岡県湖西市は今から約1500年前の古墳時代から焼き物の生産地だった。窯跡は千にも及ぶと言われている。その湖西市で作られた焼き物、現在では須恵器と呼ばれる陶器は実に美しい。どこが美しいのか。色でも絵でもなく、それらを作った人たちの心が美しい。その純粋な心に触れると眺めているこちらの心も洗われる気がする。それらを見に、ぜひ湖西に来ていただきたい。

優秀賞5 「やがて静かに海は終わる」

この海には、確かな思い入れがある。女性との思い出、静かな渚の明るい景色。ぼくは、白須賀の雄大な海から、たくさんの宝物をもらった。ここでは、陸と海が対峙し、お互いの威容を競っているかのよう。一日という明滅のなかで、そこに住む人々のストーリーがある。やがて静かに明るい海は、夕闇に沈む。来てください、この海。静岡県湖西市、白須賀。

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