令和5年度静岡県試験研究10大トピックス
10大トピックスとは
静岡県の産業振興や県民生活の質の向上を目的として様々な試験研究を行っている県の試験研究機関において、特に顕著な成果のあった研究を、「静岡県試験研究10大トピックス」として紹介します。
令和5年度静岡県試験研究10大トピックス
多様化するニーズに応えるチャ新品種「しずゆたか」、「ゆめすみか」を育成(農林技術研究所)
課題
近年、ドリンク飲料等の原料茶や海外における有機栽培茶等の需要が増加しており、生産現場からは低コスト生産に向く多収性品種や有機栽培に向く耐病性品種が求められている。一方、嗜好の多様化により消費者側からは、これまで以上に香味等に特徴のある品種が求められている。
成果
農林技術研究所では、これらのニーズに応える2つの新品種を育成した。
「しずゆたか」は、生葉収量が主力品種の「やぶきた」と比べ、2倍の超多収性であるとともに、重要病害の炭疽病にも強いため、ドリンク原料と併せ、海外で需要が高く輸出の拡大に不可欠な有機栽培茶にも適している。
「ゆめすみか」は、生葉を萎凋(いちょう)処理(加温、撹拌、低温静置)することにより、スミレのような甘い香りが際立ち、消費者から非常に高い評価が得られた。
今後の予定
生産者や茶関係者及び消費者等に両品種の情報を提供する。
茶苗生産者と許諾契約を結び、早期に苗木出荷体制を整備する。令和6年3月から苗木の供給を開始し、令和10年頃から荒茶の生産が開始される見込み。
春先に出荷可能な温州みかん「春しずか」の品種登録・苗木供給開始(農林技術研究所)
課題
本県温州みかんの主力品種である「青島温州」において、気候変動の影響による貯蔵性の低下が問題となっている。
また、収穫作業の集中等による労働力不足が規模拡大を図るうえでの障壁となっている。
成果
貯蔵性低下の原因となる浮き皮の発生が少なく、「青島温州」より収穫時期が遅いために労力分散が期待される温州みかん「春しずか」を国立研究開発法人理化学研究所との共同研究で育成し、令和6年3月6日付けで品種登録された(登録番号:第30107号)。
今後の予定
令和6年3月に、静岡県経済農業協同組合連合会より生産者向けに約1,900本の苗木が供給された。引き続き、苗木の生産体制を整え、令和7年以降も供給をしていく。また、令和9年度から、果実の本格的な販売が開始される見込みである。
10月から出荷可能なイチゴの超促成作型の開発 (農林技術研究所)
課題
イチゴの国内供給は10月以前が少なく高単価であるものの、10月から収穫する作型は、高温による小玉化等により年内収量が減少し、収益性が高くないことが課題となっている。
成果
本県オリジナルのイチゴ品種「きらぴ香」の「早生性、連続して収穫が可能、高品質で良食味」である特長を活かし、7月からの苗の短日夜冷処理と定植後のイチゴ基部(クラウン)の冷却処理を組み合わせることで、10月中旬から一番果(頂花房)が収穫ができる超促成作型を開発した。
その後の二番果(第一次腋花房)の収穫開始もクリスマス需要期の12月からとなり、高単価である年内収量の増加及び作期拡大による総収量の増加も期待される。
今後の予定
県内現地での実証試験を実施し、現地検討会や成果発表会を開催することで、研究成果の県内産地への活用促進を図る。
環境と豚にやさしい暑熱対策技術の開発(畜産技術研究所中小家畜センター)
課題
地球温暖化による気温上昇は豚への大きなストレスとなり、飼料を食べる量が低下して出荷までの日数が延びる原因となっている。豚舎でエアコンを利用すると豚のストレスは減るが、豚舎は面積が広いためエアコンの消費電力が大きく、コストがかかることから、商用電源に依存しない、環境にやさしい暑熱技術が求められている。
成果
地下水の豊富な養豚場をモデルとして、地下水をエアコン内部に貫流させて冷媒を冷やす冷房装置を開発した。また、地下水を超音波装置で霧状にして噴霧することで豚舎内を気化冷却する技術を開発した。
その結果、空調に要する電力消費が84%削減され、夏季における豚の出荷日齢が4日短縮され生産性が向上した。
今後の予定
開発した冷却システムは令和6年度に商品化されたことから、県内養豚場での暑熱対策としてさらなる普及を目指す。
プレバイオティクス(腸内環境改善)で養殖ウナギの感染症の予防と成長促進 (水産・海洋技術研究所)
課題
細菌による疾病はウナギの養殖に毎年大きな被害をもたらしている。とくにパラコロ病は被害が大きく、令和5年の県内被害量は7.1トン、被害金額は32百万円であった。治療薬としては抗生物質があるものの、薬剤耐性菌が出現する危険性があることに加え、その購入金額が令和5年は県内で8.2百万円にのぼり、疾病による被害と合わさって養鰻経営を圧迫している。そのため、抗生物質に頼らない予防・治療方法の確立が求められている。
成果
餌にオリゴ糖の一種ケストースを混ぜてウナギに与えると、ウナギの腸内で善玉菌が増え、パラコロ病の病原菌が減少する。
また、飼料効率が向上して、同じ量のエサで成長量が1.23倍になる。ケストースをウナギに与えることで、細菌感染症の被害軽減と生産コスト削減が可能となり、養鰻経営の安定化が期待される(藤田医科大学他2者との共同研究:特許出願中)。
今後の予定
現在、県内のウナギ養殖生産者の協力を得ながら、ウナギ養殖の現場で効果を確認中。今後、本技術を県内ウナギ養殖生産者へ普及し、「腸活うなぎ」としてブランド化を推進する。
ブルーカーボン量の推定に必要な海藻の面積の簡易測定技術の開発(水産・海洋技術研究所)
課題
脱炭素社会の実現に向け、海藻などに取り込まれた炭素である“ブルーカーボン”が世界的に注目されているなか、日本では海藻を増やす活動をし、増加した分の海藻のブルーカーボンを企業が買い取ることで活動資金になるクレジット制度の試行が始まった。この制度への申請には、ブルーカーボン量の算定の基礎となる海藻分布面積の調査が必要不可欠であるが、技術的に漁業者自らの調査は困難であり、ダイバー等への経費負担も課題となってる。
成果
市販の水中カメラと、フリーソフトの利用により、海藻分布面積の簡易かつ低コストな測定技術を開発した。
船上から降ろした水中カメラの映像(海藻の被度;単位面積当たりの範囲を海藻がどのくらい覆っているか)をフリーソフトで解析して海藻の分布図を作成することで、分布面積の算出が可能となった。これにより、従来は専門のダイバーにより経費をかけて行っていた海藻の分布調査を、漁業者自らが経費を掛けずに行うことができるようになった。開発した手法は、漁業者活動団体と現場実装に向けた調整を行い漁業者向けマニュアルも作成した。
今後の予定
県内でのクレジット制度の活用を推進するため、作成した漁業者向けマニュアルを普及するとともに、クレジット制度への申請指導を行う。
自動車から路面へピクトグラムを投影する装置を県内企業と共同開発(工業技術研究所)
課題
人とクルマの円滑な意思疎通は、安心安全な交通社会の実現には必要不可欠である。路面にピクトグラム(図形)を投影して、運転手や歩行者に情報を伝達する「コミュニケーションライティング」は数年以内に製品化が検討されている新しい車載照明の機能の1つである。
交通社会に関わるより多くの人々がその恩恵を享受するために、コストと性能を両立した製品が求められている。車載照明産業を支える県内中小企業においては、多機能化に伴う光学部品の小型化への対応が喫緊の課題である。
成果
法規化が検討されている、逆走や車線逸脱の警告を想定したピクトグラムの一部を投影する装置を県内企業と共同開発した。
その心臓部には、工業技術研究所がドイツ・フラウンホーファー研究所等との技術連携で培った新しい光学部品「マイクロプリズムアレイ※」の開発技術が投入されている。
(1)LEDとマイクロプリズムアレイだけで機能するので部品点数が少なくて済むこと(コスト)、(2)投影距離が変わってもピクトグラムがぼけないこと(性能)が、レンズを用いる従来技術に対する優位点である。
※一辺が1mm未満の微細なプリズムを1,000個以上配列した光学部品で、光が屈折する方向を制御してスポットライトの重ね描きのような原理で図形を投影することができる技術。
今後の予定
県内企業と連携してマイクロプリズムアレイを用いた照明製品の普及に向けた、継続的な研究開発を行う。
今後、車載分野に限定せず、街路灯や誘導灯など、照明技術で安心安全を実現する製品としての販路開拓支援を行う。
遠州の廃棄繊維を利用したリサイクル紙の開発(工業技術研究所)
課題
近年、ファッション産業では、ファストファッションの急伸による短いサイクルでの大量生産、大量廃棄など、環境に多大な負荷を与えている側面があることから、環境負荷を考慮した「サステナブルファッション」の取組が推進されている。本研究では、サステナブルファッションに寄与する一つの手段として、遠州地区の織物工場の製造工程から排出される不要な端材などを紙の原料としてリサイクルするための研究開発を行った。
成果
工場実機による抄紙を行い、遠州地区の廃棄繊維が30%配合(綿:麻=3:1)されているリサイクル紙の抄紙に成功した。強度などの物性は、市販の印刷用紙と同等以上であり、通常の印刷用紙として利用可能であることを確認した。
今回開発したリサイクル紙は、排出元の繊維関連業者や繊維関連団体で名刺やショップカードなどに活用されている。
今後の予定
今後は活用先の事業者などに、使用感や改善要望などのヒアリングを実施し、リサイクル紙の品質向上に繋げる予定。
また、本研究の成果を広く情報発信することで、サステナブルファッションの取組拡大を支援する。
デジタルものづくりの支援拠点を開設(工業技術研究所)
課題
世界的な脱炭素社会実現に向けた動きが加速する中で、電気自動車化やデジタル化の本格化など産業構造の変化が進展している。自動車メーカーなど大手企業を中心にデジタル化の動きが加速し、CAE(設計シミュレーション)や金属3Dプリンタなどを活用した低コスト・高付加価値のデジタル部品開発が進んでいるものの、県内のCAE導入済み企業は16.9%と少ない現状にある。(令和3年調査)
成果
令和5年9月1日に支援拠点「デジタルものづくりセンター」を浜松工業技術支援センター内に開設し、企画、設計から成形・加工、計測・評価まで一貫したデジタルものづくりを支援している。シミュレーションや金属3Dプリンタなどに関するセミナーを6回(合計参加者513名)、ワークショップを9回(合計参加者78名)開催するなど、多くの企業に活用いただいている。
今後の予定
令和6年度は、最新の3Dスキャナを新規導入し、企業の開発現場に出向いたプッシュ型支援を実施するなど、中小企業のデジタルものづくりを強力に推進する。
服薬補助を目的とした食品が医薬品の溶出性に与える影響を解明 (環境衛生科学研究所)
課題
嚥下機能障害は、高齢患者の薬物治療への積極的な参加の障壁となっており、その対策として、服薬時に服薬補助ゼリーやとろみ調整食品が用いられることがある。しかし、これらの服薬補助を目的とした食品を用いた場合、医薬品の有効成分の溶出が妨げられる可能性がある。
成果
服薬補助ゼリーやとろみ調整食品で包んだ医薬品の溶出試験を行い、服薬補助を目的とした食品が医薬品の有効成分の溶出性に与える影響を医薬品の剤形ごとに明らかにした。
得られた成果はリーフレットにまとめ、県内各地域の薬剤師会所属の薬剤師へ配布し、高齢患者等への服薬指導への活用を促した。
今後の予定
県民の適切かつ有効な薬物療法に寄与することができるよう、薬剤師会を交えた研修会や意見交換会等様々な機会を活用し、得られた成果を広く周知していく。
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